INSTANT KARMA

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2019-09-01から1ヶ月間の記事一覧

大知識人

この数週間は『悪霊』にすっかり憑りつかれていて、今は米川正夫訳と江川卓訳と亀山郁夫訳を頭から順番に読み比べを開始した。 どの翻訳も一長一短だが、今のところ(第1部の途中)米川正夫訳が一番しっくり来る。 江川卓訳はいいのだが、ステパン氏のフラン…

真皮の蒲原

『マイケル・ジャクソンと神秘のカバラ』という本(これが本と呼べるのだろうか?)を読む(正確には本屋で立ち読み)。 書店がアマゾンのせいで次々に亡くなっていく中で、この「立ち読み」という風習が死滅していくことは現代の悲しき事態の一つである。 …

貧しき人びと

車中で『貧しき人びと』を読む。最後の頁だけは読んでいると号泣しそうで怖かったので読まなかった。あとで独りになって読んだらやっぱり号泣した。 世間から侮蔑の目で見られている小心で善良な小役人マカール・ジェーヴシキンと薄幸の乙女ワーレンカの不幸…

リベラリストの死

『悪霊』の登場人物の中で、最もよく描けているのは、スタヴローギンや他の人物よりも、ステパン氏であるという説は有力だ。 西欧(フランス)かぶれのリベラリストだが、偽善的で腰の座っていない姿勢を、自らの教え子である、より過激な自由思想をもつ下の…

永久調和の瞬間

キリーロフは、自分は既に救われたと信じている。 なぜなら、究極の真理を悟ったから。あとは、その具体的実践の問題が残るだけだ。 オウム真理教の内部にカメラを持ち込み、信者たちの姿を曝け出した「A」「A2」というドキュメンタリー作品(森達也監督…

只の虚無

『悪霊』について、しつこく書く。 スタヴローギンは、この物語に登場する時点では、既に精神的な廃人になっている。 小説の中の彼は、幻となった「告白」の章を除いては、まるで亡霊のような存在感だ。彼は、幼少時に父が不在で、根無し草のようなステパン…

「悪霊」の謎

清水正は『「悪霊」の謎』の中で、作中で物語の執筆者という設定になっているアントン(G)について、ステパンの念友だったとか、ピョートルと同じ任務を果たしていた政府のスパイであったとかのトンデモ説を真面目に論じていて、急に萎えた。 そういう読み…

Demons

『悪霊』読了。 これも30年ぶりの再読だが、やはり当時と印象がだいぶ違う。 今回は、ステパン・トロフィーモヴィチ・ヴェルホーヴェンスキーの最期のくだりが涙なしでは読めなかった。 加賀乙彦という作家の『小説家が読むドストエフスキー』という本(集…

理由なき殺人

理由なき殺人には、そもそも、目的というものがない。金品奪取は、理由なき殺人を現実化=実現するための、見せかけの口実、いわば偽りの理由にすぎない。だから、彼は、盗品が何であるかを知りたくもなければ、財布の中身を見もしないのである。 では、何の…

未成年

ドストエフスキー『未成年』をひとまず読了。 他の長編とは毛色が違って、読み通すのが少し大変だった。 この独特な文体の感覚に一番しっくりくるのが個人的には岡村靖幸『青年14歳』という曲ではないかという気がする。 山城むつみという評論家は、『未成…