INSTANT KARMA

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2022-02-01から1ヶ月間の記事一覧

passion

濱口竜介監督の「PASSION」(2008年)が下北沢の劇場で上映されていたので見に行った。 正直、映画としてはイマイチ乗れなかったが、濱口監督のフィルモグラフィーを押さえる上では大いに参考になった。 「PASSION」は、2008年東京芸術大学修了制作で、海外…

Black Box

第百六十六回芥川賞受賞作、砂川文次「ブラックボックス」を読み、その素晴らしさに感動。 選評を読むと、「方法の冒険がなく、小説的企みも薄く、退屈さは否めなかった」(奥泉光)とか「自然主義リアリズムの古めかしさと裏おもて」(松浦寿輝)とか「ベタ…

カメラの前で演じること

映画「ハッピーアワー」テキスト集成であり、濱口竜介監督がみずからその成立過程を解き明かした本、『カメラの前で演じること』をとても興味深く読んだ。 ほとんど演技経験のない俳優たちを使って5時間を超える映画を撮って、それがなぜあれほど、プロの俳…

Ribbon

脚本・監督・主演をのんが務めた初の劇場長編作品『Ribbon』をテアトル新宿で見てきた。 舞台挨拶のあった上映の後の回だったので、客席は満員ではなかったが、適度なソーシャル・ディスタンスを保って見ることができてかえって良かった。 一年くらい前にの…

Happy Hour Again

3,4年前に録画で見た濱口竜介監督『ハッピーアワー』をもう一度見返してみた。 なんとなく見始めたらどんどん引き込まれていき、気が付いたら休日の5時間以上をテレビの前で釘付けになっていた。 長いことにはそれなりの理由がある。この長さだからこそ…

偶然と想像

濱口竜介監督の最新作で、ベルリン映画祭で受賞したという『偶然と想像』を観に行く。 『ドライブ・マイ・カー』で大ホームランをかっ飛ばした濱口監督の、乗りに乗った充実ぶりが伝わってくる、短編作品三話からなるオムニバス映画。 所用で到着するのが遅…

ホン・サンス

昨日見た動画で濱口監督がホン・サンスについて言及しているのを聞いたのをきっかけに、以前から気になっていた彼の作品をいくつかAmazonPrimeで見た。 最初に見たのが2017年の「それから」、次に同年の「クレアのカメラ」を見たが、淡々としたアンチドラマ…

正しい日 間違えた日

濱口竜介監督が女優のイザベル・ユペールと対談している動画の中で、ホン・サンス監督の話題が出ていて、以前から気になっていたので、アマゾンプライムで見れる作品を見てみた。 2017年の「それから」とイザベル・ユペールが出演した「クレアのカメラ」とい…

Drive My Car (ダメ出し編)

もういいかげんしつこいのでこれで終わりにしますが、ネットでのレビューなど見ていると絶賛の評価も多い一方で当然おもしろくなかったとかネガティブな評価もある。 それらを単に価値観の違いと切って捨てるのでは「正しく傷つく」ことを回避してコミュニケ…

Drive My Car(雑感編)

濱口監督の前作『寝ても覚めても』が東出昌大の映画だったように、今回の『ドライブ・マイ・カー』は西島秀俊の映画だったといえる。とにかく最初から最後まで出ずっぱりなのだ(もうひとりの〈主役〉はもちろん「サーブ 900」だ)。 西島は主人公・家福悠介…

Drive My Car 感想(ネタバレ編)

「今作は全体として、なにか停滞している人間の話でもある」 (濱口竜介監督インタビューより) ワーニャ 僕は明るい人間でしたが、そのくせ誰一人として、明るくしてはやれなかった。……(間)この僕が明るい人間だった。……これほど毒っ気の強い皮肉は、ほか…

Drive My Car感想(ネタバレなし編)

『ハッピーアワー』と『親密さ』がとても好きで、他の初期作品も機会があれば是非見たいと思っていたほどだった濱口竜介監督作品で、昨年の8月に公開されているのは知っていながら、今の今まで観に行こうと思わなかったのは、前作『寝ても覚めても』の印象…

ドライブ・マイ・カー

話題の見て来た。 うん、まあ、これは、傑作。 感想は改めて書く。 パソコンの調子がおかしいので。 濱口竜介監督、やりましたね。

正宗白鳥と内村鑑三

正宗白鳥『内村鑑三』は、十代から二十代にかけて熱心に読み、その講義に通った「我はいかに基督教徒になりしか」の著者について書いた長めの随筆である。 評伝でも論文でもない、雑感を記した本で、『内村鑑三雑感』という続きもある。 いかにも白鳥らしく…

岡田睦

西村賢太と坪内祐三の対談で知ったもう一人の作家が、岡田睦(おかだ・むつみ)だった。 1932年生まれで、慶応文学部を卒業し、家庭教師などをしつつ黒田壽郎、黒田美代子、古屋健三らと同人誌『作品・批評』を創刊、『三田文学』などに小説を書き、1960年「…

K

三木卓の私小説「K」(講談社文芸文庫)を読む。 三木卓といえば、いつのだか忘れたが、国語の教科書に文章が載っていたというかすかな記憶があり、詩人か児童文学者というイメージがあった。 この本の巻末についている年譜をみると、父親がアナーキズム系…

「ママはノースカロライナにいる」

東峰夫という作家の単行本『ママはノースカロライナにいる』(講談社、2003年)を読む。 西村賢太と坪内祐三の「ダメ人間作家コンテスト!」という対談で名前が挙がっていて、西村が彼の「ガードマン哀歌」という小説が素晴らしいと語っていたので興味を持っ…

『八木義徳・野口冨士男往復書簡集』

『八木義徳・野口冨士男往復書簡集』という本を読んだ。 図書館で借りたものだが、本当はこういう本は短期間で読み飛ばすのではなく、いつも手元に置いてじっくり読みたいものだ、などとだんだんいっぱしの文学愛好者じみたことを偉そうに書いてしまう自分に…

さようなら

改めて西村賢太の人生を振り返ってみると、彼は生涯(特に後半生)を通じて、非常に充実した作家活動を行っていたことが分かる。 21歳の時に田中英光全集を読み、27歳で『田中英光私研究』を自費出版している。この冊子は29歳の第8集まで刊行された。独力で…

哀悼 西村賢太

一銭にもならない西村賢太の追悼をブログに書き続けている。事務所のパソコンを使ってそんなことばかりしている。公務員だった頃から内職の癖は止まない。学校に通っていたときには内職はしたことがなかったのだが、大学に入ってからすべてが狂った。どうや…

西村賢太

西村賢太の小説にハマったのは去年の三月末からだから、まだ一年も経っていない。図書館で「どうで死ぬ身の一踊り」を借りてその面白さに目覚めたのが最初だった。面白い小説を探して芥川賞全集などを読んでいて、どれも退屈でウンザリしていたときに、西村…

一私小説書き逝く

都電の線路を足ばやに横ぎり、ガード下をぬけたところでもう一度振りむいてみたが、それと気になる人物や車輛はやはりなかった。根が小心者にできてるだけ、最後に吐き残した暴言のことで連絡を受けたその店の者が追っかけてきはしまいかとヘンに気にかかっ…

こま子の夜明け前

『島崎こま子の「夜明け前」―エロス愛・狂・革命』(梅本浩志著、社会評論社、2003年)という本を読む。 こま子との愛を断った藤村は、『夜明け前』の執筆へと向かう。別れたこま子は京大社研の学生たちに連帯して革命と抵抗世界へと突き進む。野間宏の描い…

岡田睦

野口富士男『作家の手』には最晩年(82歳で亡くなる直前)のエッセイが収録されているが、文章はしっかりしていて肉体は衰弱しても意識の混濁したようなところはまったく感じない。さすが私小説家、と思う。 岡田睦という私小説の極北といわれる(一体いくつ…

平野謙と「新生」

杉野要吉『ある批評家の肖像―平野謙の〈戦中・戦後〉』は定価1万6千円(+税)、600頁を超える大著だが、大半が中山和子ほかの平野謙寄りの評論家との細かい論戦に費やされていて、実質的な中身はそれほどない。 乱暴に要旨をまとめると、平野謙は妻帯の身で…

Portrait of a critic

杉野要吉『ある批評家の肖像―平野謙の〈戦中・戦後〉』が妙に気になっている。 平野謙といえば『島崎藤村』という評論の中で『新生』を批判していたのが印象的で、読んだときは溜飲が下がる思いがしたものだが、実はその平野は戦時中に「情報局」という政府…

虚無だね。虚無しかない。

だけど、この頃は死ぬというのはどんなことかなとばかり考えるね。やっぱり死にたくないね。誰でもそうだろうけど。 「死線を超えて」にも書いたけど、意識がなくなったら来世なんかありっこないからね。僕は来世というのは絶対にないと思う。 ただ、死んで…