INSTANT KARMA

We All Shine On

大江健三郎

Chilling and Killing (my Annabel Lee)

大江健三郎「臈たしアナベル・リイ総毛立ちつ身まかりつ」を読む。 「取り替え子」以降の後期小説でこれだけ読んでいなかったので、この機会に読む。 いつもの変形私小説だが、今回は同郷の”伝説の女優”サクラと彼女を担いで国際的プロデューサーになること…

Prayer by a non-believer

明け方に目覚めて眠れないので、某文学系ユーチューバーの大江健三郎追悼トークを聴いていたら、その人のおすすめ作品ナンバーワンは『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』で、『個人的な体験』はピンと来ないと言っていて、感性は読者によりそれぞれ違う…

最後の大小説家

Ⅰ 大江健三郎は、ずっと自分の読書範囲には入らない作家だった。彼の小説を一番身近なものとして感じたのは、息子が生まれた当時、妻が持っていた大江の『新しい人よ目覚めよ』という小説が引用していたウィリアム・ブレイクの詩集から命名のアイディアを借…

Anti-natalism

今の世界、この先絶対長生きしたい!と思えるような世界ではなくなってる、と僕はなんとなく感じるが、そういう感覚があるということは、出生率の低下や結婚しない人の増加や反出生主義ともたぶんつながっていて、なんか、全体的に、もういいや、となってき…

Killing w/ Kindness

政治というのは建前の世界で文学は本音の世界だから両立させるのは無理があると思う。両立させるというのは、両方で一流の仕事をするという意味で、石原慎太郎や今東光は両立させたとはいえない。ウィンストン・チャーチルはどうなんだと言われたら、チャー…

戦後民主主義者

大江健三郎の全盛期はやはり『個人的体験』から『万延元年のフットボール』あたりだと思うが、それ以外の作品は時代状況を考慮に入れて読まないと分からないところがある。逆に言えば時代状況をリアルに文学として写し取った作品といえるのではないか。 彼に…

Death by the Water

大江健三郎『さようなら、私の本よ!』と『水死』を読んだ。 「全小説4」収録の「父よ、あなたはどこへ行くのか?」「われらの狂気を生き延びる道を教えよ」「みずから我が涙をぬぐいたまう日」も目を通しては見たが、文章が捻りすぎてちょっと受け付けなか…

Personal Affair

大江健三郎『個人的な体験』をようやく読めた。 これはやはり名作。個人的には、志賀直哉『和解』と並ぶ私小説の傑作と思った。 もちろん厳密には私小説ではないのだが、私小説だってフィクションを含まないことはないのだから私小説でいいだろう。 構造的に…

われらの時代よふたたび

大江健三郎(86)の自筆原稿や校正ゲラなどの資料約50点が、母校の東京大学に寄託されたと、東大が12日発表した。大江の原稿がまとまって公的機関に寄託されるのは初めてという。東大は今後、これらの資料を保管・管理し、国内外の研究者に公開する研究拠点…

M/Tと懐かしい年への手紙

週末は大江健三郎『懐かしい年への手紙』を読んで頭がグラグラしたが、『万延元年のフットボール』のときほどではなかったのは、大江の文体に多少なりと慣れたことと、こちらの方が読み易い文体で書かれていたことのせいかもしれない。万延の方がフィクショ…

憂い顔の童子

大江健三郎『憂い顔の童子』を読む。 『取り替え子』の続編。舞台は四国の郷里である山村。ドイツに行った妻と、東京の長女を残して、長男のアカリと共に暮らす古義人(以下「コギト」と記す)。 アメリカ人の文学研究者で、コギトの小説の舞台を調査して論…

1860年のサッカー

週末は大江健三郎『万延元年のフットボール』を一気に読んで頭がグラグラした。 冒頭の段落が「夜明けまえの暗闇に眼ざめながら、熱い『期待』の感覚をもとめて、辛い夢の気分の残っている意識を手さぐりする。」という文章で始まっているので、土曜日の明け…

Strange Job

荻窪の古本屋で大江健三郎の初期短編集の文庫を買って、『奇妙な仕事』、『動物倉庫』、『鳩』、『見る前に跳べ』、『鳥』まで読んだ。 『奇妙な仕事』について、小谷野敦は、「奇蹟の処女作であり、人間存在のざらりとした感触を、日本文学にかつてない表現…

SOULLESS MEN

大江健三郎の『取り替え子』を読んでいて、大江作品によく登場する「批判的なジャーナリスト」が気になってネットで調べたら、本多勝一のことらしい。本多の執拗な批判は大江のメンタルに相当堪えたようだ。 本多勝一も大江健三郎も大きく括れば左翼の人なの…

Swimming Man

妻の蔵書の中から大江健三郎の著作集を承諾を得て引っ張り出し、『静かな生活』、『雨の木を聴く女たち』を読み始めた。この著作集(大江にはいくつかの全集が出ているようでこれが決定版と言う訳でもないようだ)には他に『新しい人よ目覚めよ』も入ってい…