INSTANT KARMA

We All Shine On

映画・ドラマ関係

Tokyo Story

濱口竜介監督が「ユリイカ2016年2月号 特集=原節子と〈昭和〉の風景」に「『東京物語』の原節子」という文章を寄稿していて、これがなかなか静かな熱量の籠ったいい文章であった。「静かな熱量」というのは濱口監督の映像作品にも共通して受ける感銘である…

passion

濱口竜介監督の「PASSION」(2008年)が下北沢の劇場で上映されていたので見に行った。 正直、映画としてはイマイチ乗れなかったが、濱口監督のフィルモグラフィーを押さえる上では大いに参考になった。 「PASSION」は、2008年東京芸術大学修了制作で、海外…

カメラの前で演じること

映画「ハッピーアワー」テキスト集成であり、濱口竜介監督がみずからその成立過程を解き明かした本、『カメラの前で演じること』をとても興味深く読んだ。 ほとんど演技経験のない俳優たちを使って5時間を超える映画を撮って、それがなぜあれほど、プロの俳…

Happy Hour Again

3,4年前に録画で見た濱口竜介監督『ハッピーアワー』をもう一度見返してみた。 なんとなく見始めたらどんどん引き込まれていき、気が付いたら休日の5時間以上をテレビの前で釘付けになっていた。 長いことにはそれなりの理由がある。この長さだからこそ…

偶然と想像

濱口竜介監督の最新作で、ベルリン映画祭で受賞したという『偶然と想像』を観に行く。 『ドライブ・マイ・カー』で大ホームランをかっ飛ばした濱口監督の、乗りに乗った充実ぶりが伝わってくる、短編作品三話からなるオムニバス映画。 所用で到着するのが遅…

ホン・サンス

昨日見た動画で濱口監督がホン・サンスについて言及しているのを聞いたのをきっかけに、以前から気になっていた彼の作品をいくつかAmazonPrimeで見た。 最初に見たのが2017年の「それから」、次に同年の「クレアのカメラ」を見たが、淡々としたアンチドラマ…

正しい日 間違えた日

濱口竜介監督が女優のイザベル・ユペールと対談している動画の中で、ホン・サンス監督の話題が出ていて、以前から気になっていたので、アマゾンプライムで見れる作品を見てみた。 2017年の「それから」とイザベル・ユペールが出演した「クレアのカメラ」とい…

Drive My Car (ダメ出し編)

もういいかげんしつこいのでこれで終わりにしますが、ネットでのレビューなど見ていると絶賛の評価も多い一方で当然おもしろくなかったとかネガティブな評価もある。 それらを単に価値観の違いと切って捨てるのでは「正しく傷つく」ことを回避してコミュニケ…

Drive My Car(雑感編)

濱口監督の前作『寝ても覚めても』が東出昌大の映画だったように、今回の『ドライブ・マイ・カー』は西島秀俊の映画だったといえる。とにかく最初から最後まで出ずっぱりなのだ(もうひとりの〈主役〉はもちろん「サーブ 900」だ)。 西島は主人公・家福悠介…

Drive My Car 感想(ネタバレ編)

「今作は全体として、なにか停滞している人間の話でもある」 (濱口竜介監督インタビューより) ワーニャ 僕は明るい人間でしたが、そのくせ誰一人として、明るくしてはやれなかった。……(間)この僕が明るい人間だった。……これほど毒っ気の強い皮肉は、ほか…

Drive My Car感想(ネタバレなし編)

『ハッピーアワー』と『親密さ』がとても好きで、他の初期作品も機会があれば是非見たいと思っていたほどだった濱口竜介監督作品で、昨年の8月に公開されているのは知っていながら、今の今まで観に行こうと思わなかったのは、前作『寝ても覚めても』の印象…

ドライブ・マイ・カー

話題の見て来た。 うん、まあ、これは、傑作。 感想は改めて書く。 パソコンの調子がおかしいので。 濱口竜介監督、やりましたね。

『麦秋』

(監督:小津安二郎、脚本:野田高梧、小津安二郎、出演:原節子、笠智衆、淡島千景他/松竹/1951年) 原節子の「紀子三部作」の二作目であり、一作目の『晩春』との対比で見ないと作品の真価は分らないので、以下『晩春』についてのコメントも頻出する。 …

『南の島に雪が降る』

加東大介『南の島に雪が降る』(ちくま文庫)を読む。 最近見た「あらくれ」「浮雲」(成瀬)、「河内山宗俊」「人情紙風船」(山中貞雄)、「小早川家の秋」(小津)などで印象的な演技を見せている俳優の書いた本として手に取ったが、その余りに凄まじい内…

『晩春』

(監督:小津安二郎、脚本:野田高梧、小津安二郎、出演:原節子、笠智衆、月丘夢路他/松竹/1949年) もはや何もかも語り尽くされた感のある古典的作品だが、個人的備忘録として感想を記す。 原節子が強烈。原演じる紀子の激情をまったく意に介さずスルー…

『人情紙風船』

(監督:山中貞雄、脚本:三村伸太郎、出演:中村翫右衛門、河原崎長十郎、霧立のぼる他/PCL/1937年) この映画は最初から最後まで印象に残るシーンに事欠かないのだが、中でも、〈雨の中を佇む浪人・海野又十郎〉と、〈宴会の席で爆笑する海野又十郎〉…

『河内山宗俊』

神保町シアターで山中貞雄監督の『丹下左膳余話 百万両の壺』[4Kデジタル復元・最長版] と『河内山宗俊』[4Kデジタル復元版] を観た。この上映のあることを知ったのは先日岩波ホールで見つけたパンフレットで、山中貞雄監督のことは図書館で借りた坪内祐三『…

山中貞雄

坪内祐三によると、普通の映画好き百人に、日本の映画史上で最高の映画監督は誰かと尋ねれば、一位はたぶん黒澤明で、本格的な映画好き百人になると、小津安二郎だが、さらにマニアックな映画好き百人になれば、一位は、きっと、山中貞雄だろう、という(『…

人間鑑定図

高峰秀子著『にんげん蚤の市』収録「人間鑑定図」より ある日のせりに、俗にお歯黒壺と呼ばれる越前の壺が出た。丹波、信楽(しがらき)など、ゴツゴツとした土(つち)ものにはあまり縁のない私だけれど、そのお歯黒壺は珍しく小型でコロリと丸く、生意気に…

草の響き

『草の響き』という映画を見た。 原作は佐藤泰志の小説で、数年前に映画化された『きみの鳥はうたえる』と同じ単行本(文庫にもなっている)に収められている、短編といっていい作品である。 主演は東出昌大(和雄役)。原作にはない登場人物として妻・純子…

Voice of Spirit

昨日はワクチン2回目接種後の副反応で39.2度の熱が出て、横になりながらiPadで「三島由紀夫VS東大全共闘五十年目の真実」をアマゾンプライムビデオで見た。 あれを見て「三島由紀夫カッコ悪い」と思う人はあまりいないのではないか。逆にイキって…

散るぞ悲しき

この週末に読んだ本: 『散るぞ悲しき―硫黄島総指揮官・栗林忠道』(新潮文庫)梯 久美子 『硫黄島 栗林中将の最期』 (文春新書)梯 久美子 『総員玉砕せよ!』 (講談社文庫)水木 しげる 『敗走記』(講談社文庫)水木 しげる 『十七歳の硫黄島』 (文春新書)秋草 …

コロナ国葬狂うひと 私をくいとめて

セルゲイ・ロズニツァ監督『国葬』を見た。 スターリンの葬儀に参列する群衆の表情をひたすら映し続けるドキュメンタリー。 資料映像としての価値。 梯久美子『狂うひと』を読んだ。 『死の棘』の作者島尾敏雄とその妻・ミホの神話に楔を打ち込む傑作文芸ノ…

NO SMOKING

細野晴臣のドキュメンタリー映画『NO SMOKING』がとても良かったので忘れないうちに書く。 数日前からなんとなく細野晴臣の本を読んだり音楽を聴いたり集中的にしていたら、ネットで検索するとこの映画が都内では見れる最後の機会だと知って、これはいくしか…

トロピカル・マラディ

神奈川近代文学館で、アピチャッポン・ウィーラセタクンの『トロピカル・マラディ』を観る。 画質があまりよくなかったのが残念だったが、森の映像はなんだかずっと心霊写真を見せられているような妙なリアリティがあった。 『中島敦展』の記念上映会という…

Blissfully Yours

東京都写真美術館でアピチャッポン・ウィーラセタクンの『ブリスフリー・ユアーズ』を観る。 その前に上映された監督の軽いドキュメントフィルムも観る。 アピチャッポン映画を観ることは一種の感覚のご馳走だ。 『トロピカル・マラディ』もやっていたのだが…

野いちご

家の近くの映画館でベルイマンの『野いちご』を観てくる。 78歳の医学教授(イーサク・ボルイ)が大学で名誉博士号を授与される日の一日を追ったドキュメントという体で、彼の意識・無意識の世界が夢や覚醒時の出来事を通して展開されていく。 ベルイマン…

犠牲の贈り物

早稲田松竹でタルコフスキーの『サクリファイス』を観る。 タルコフスキーの遺作であるこの作品を観るのは初めてだったので、なるべく先入観なしに見ようと思い、映画の解説や評論その他の媒体にはできる限り目を通さずに見に行ったのだが、それでも事前に聞…

2018.12.30

朝4時に目が覚めて、菊地成孔『粋な夜電波』最終回を聴く。 荒野に叫ぶ預言者の声がひとつ消えた。 サロメの一言で斬首された洗礼者ヨハネを想起させる。 その後、朝に独りで、菊地成孔が絶賛していた韓国映画『お嬢さん』を録画していたのを見る。 これは…

寝ても覚めても

以前ブログで書いた『ハッピーアワー』や『親密さ』などの濱口竜介監督の新作、『寝ても覚めても』を観に行ってきた。 これまで見た作品では、プロよりは素人に近い俳優を使って、自分で書いた脚本のテキストを生かすような作り方をしていた印象があるので、…