私小説
先日、二瓶哲也『それだけの理由で』を読んでの感想に、 西村賢太という存在が失われて、もう小説というものには縁が切れたかな、と思いかけていたところだったが、まだ二瓶哲也という作家がいてくれた、と思えたことがうれしい。 と書いたが、今度はうれし…
小谷野敦小説集『蛍日和』(幻戯書房、2023年)を読んだ。 表題作中の「蛍」とは、作者が結婚した21歳年下の女性(当時23歳)の名前である。 小谷野の私小説は、童貞の悶々とした性欲、片思い女性へのストーカー的な恋慕、鬱屈した性欲の出口を求めての風俗…
私はゴッホの絵で、部屋の中の椅子だけをかいたものを見てグロテスクで、ユーモラスなのにおどろいたことをおぼえている。なぜそういうふうに感じるかといえば、さっきゴッホ自身がのべているように、人物をかくのと同じ感情でもって椅子をかいているからだ…
スライダーズの記事を書くといい感じにアクセス数が落ちて良い。 このブログは、訴えられないギリギリの線まで好き勝手なことを書くことをポリシーにしています。 なんだかもう、余りにも暑いし(これで体調不良にならない人間の方がおかしい)、日々飛び込…
小谷野敦「とちおとめのババロア」(青土社、2018)を読んだ。 「とちおとめのババロア」(『文學界』2018年3月号) 「実家が怖い」(『文學界』2018年10月号) 「五条楽園まで」(書き下ろし) 「さようならコムソモリスカヤ・プラウダ」(『文藝』2018年…
さいきんAI美女が発達しすぎて、ネットで美女の画像を見ても本物か疑ってしまう。 そしてこれを突き詰めていくと、本物だっていろいろ修正を加えているんだしとか、別に本物でなくてもいいとか、むしろ整いすぎた美女はよくないという方向にまで行く。 実際…
突然だが、私小説作家の作品に描かれた作家の家族が、作家の死後にどうなったか知りたくなったことはないだろうか? 太宰治のように、妻が回想録を書き、子が作家となった人もいる。 檀一雄の妻のように、ノンフィクションライターの手を借りて自らの言い分…
私個人は、こと小説に関しては、ただ才にまかせただけの観念の産物よりも、その作者自身の血と涙とでもって描いてくれたものでなければ、まるで読む気もしないし書く気も起らぬ 『どうで死ぬ身の一踊り』跋より 私小説作家・西村賢太の命日である二〇二三年…
西村賢太の私小説について、エセ精神分析的にやってみる。 あくまでもお遊びなので、西村賢太ファンの方及びサイコアナリーゼを真面目にやっている方は怒らないでください。 まず「北町貫多」というネーミングについて。 この名前が、作家の本名である「西村…
山田ルイ53世(こと山田順三)「一発屋芸人の不本意な日常」を読む。 ”自ら〈負け人生〉と語る日々をコミカルに綴った、切なくも笑える渾身のエッセイ。” 元・一発屋芸人による自虐ネタ語りは、部分的には従来からよくあるパターンだと思うが、ここまで執…
漫才コンビ〈髭男爵〉の山田ルイ53世こと山田順三の書いた「ヒキコモリ漂流記」という本を読んだ。「完全版」と謳われた文庫の方ではなく、2015年に出た単行本の方をkindleで買って読んだ。 一読して唸った。これは、立派な私小説ではないか。 小学生の頃は…
「川端康成初恋小説集」(新潮文庫)を買う。 『川端康成の運命のひと 伊藤初代:「非常」事件の真相』(森本穫、ミネルヴァ書房)を読んで、初代とのことについて書かれたアンソロジーがあれば読みたい、と思っていたら、丁度お誂え向きのがあった。 ネット…
週刊読書人の、佐藤泰志の評伝『狂伝 佐藤泰志 無垢と修羅』を書いた中澤雄大と佐伯一麦の対談を読んだ。 去年、佐藤泰志の小説や関連本をいろいろと読んでいるときに、中澤氏が十年以上この本の執筆に取り組んでいると書いているのを読み、完成を待ち遠しく…
西村賢太「やまいだれの歌」を読んでいる(再読)。 今朝はちょうど、貫多が田中英光全集第七巻と運命的な出会いを果たす場面だった。 よりにもよって、貫多と田中英光との出会いが、この全集第七巻だったというところに運命を感じずにはおれない(もっとも…
私小説に関してちょっと思ったことを書く。 よく高齢者などが、自費出版で「我が人生を振り返る」みたいな自伝を出版するケースが多いと聞く。 そういうのは、ほとんどが「私の人生を知ってほしい」とか「私の生きざまを伝えたい」という動機からだと思う。 …
山本健吉「十二の肖像画」(講談社、1963)の上林暁を論じた章の中に、私小説家の根本の発想に、自力型と他力型の相違があると書かれている。倫理型と信仰型といってもいい。破滅派と呼ばれる作家たちは、多く他力型である。破滅することに、自分の救いを賭…
まあ、世間の大抵の人間はマイナス思考にできているものです。何もそんなことで自分を責めるがものはないんですが、しかしそれでも何がしかの救いを求めたいというのであれば、私小説を読んでみてはいかがでしょうか。優れた私小説の書き手は、皆このマイナ…
西村賢太が終わらない。終わらせてくれない。 今日発売の「ヤマイダレの歌」(新潮文庫)を買う。 その前に読まないといけないものが色々ある。 「日乗」シリーズの詳細な分析も自分のためのメモとしてこれからやるつもり。 本格的な西村賢太研究書が出る前…
数日前の記事に書いた中尾拓哉『マルセル・デュシャンとチェス』を借りてみた。四次元についての章では、二十世紀初頭の〈四次元ブーム〉とキュビズムの関連のようなことが書かれていて、「思考の新紀元」を書いたC.H.ヒントンや四次元立方体の図を描いたク…
今日は一日国会図書館デジタルコレクションに没頭。 とりあえずチェックだけして後でゆっくり読もうと思うのだが(たぶん一生かけても読み切れそうにない)、ついつい読み耽ってしまう。そしてやはりPCの画面上では読みづらい。昨日はタブレットでも読んでみ…
昨日に引き続き、国会図書館デジタルコレクションで読める絶版本。詳しい人ならいくらでも探せそう。学術機関関係者ではない自分みたいな人にとっては本当にありがたい。 浅見淵『現代作家研究』『昭和文壇側面史』 尾崎一雄作品集第1巻~第10巻 外村繁『…
「本の雑誌」西村賢太追悼号の「北町貫多クロニクル」を見ながら、以前自分で作った時系列メモを修正する。手元にすべての本がないので、よく分からないところはそのままにする。 砂川文次「小隊」(文春文庫)を読了。三篇収録されているが、発表順に「市街…
もう日本は経済的に大きく浮上することはなく、ジリ貧に陥る一方と思われるので、これからは経済的な豊かさ以外のことに主な喜びを見出していくしかない。そんな時代にあって、貧困や苦しみの中で何気ない日常生活に生きる歓びを見出すことの価値を教えてく…
近所の図書館で「風来鬼語 西村賢太対談集3」と「一私小説書きの日乗 不屈の章」を借りる。 藤野可織との対談の中で、「暗渠の宿」の中で三島賞がらみで現存のある老大家をディスってる部分があって、その原稿を見た矢野編集長に削除するよう示唆されたが、…
「本の雑誌」2022年6月号に掲載されている「藤澤清造全集内容見本」を眺めて、改めて賢太の藤沢清造に対する尋常ならざる思いの深さに圧倒された。 内容見本に寄せた文章(「藤澤清造全集』編集にあたって)の中で「この全集さえ完結出来たら、もう、あとは…
「本の雑誌」2022年6月号は、「特集 結句、西村賢太」という永久保存版。 ツイッターで発売を知り、本屋に走る。焦りすぎて売り場で少し迷って購入。分厚い。いつもの倍くらいページが多い気がする。 冒頭に「藤澤清造全集内容見本全掲載」がきて、いきなり…
庄野潤三の『貝がらと海の音』などを読むと、これこそが「うるわしき日々」だよなあ、という感じがする。現実に存在する『うるわしき日々』という小島信夫の小説は、言葉の通常の意味において、タイトルと中身に著しいギャップがあると言わざるを得ない。 老…
庄野潤三『ガンビア滞在記』は、ロックフェラー財団の援助留学生(?)として妻と共にオハイオ州コロンバスの郊外にあるガンビアという村で一年足らずを過ごした作家の滞在記である。庄野が現地で交流した隣人の大学教授夫妻や学生、料理屋や理髪店の店主や…
庄野潤三をまとめて読みたくなり、近所の図書館にあるだけの本を借りてきた。 「新潮現代文学40」には「浮き燈台」「流れ藻」「ガンビア滞在記」の三篇が収録されている。 「貝がらと海の音」は1995年1月~12月(74歳のとき)にかけて「新潮45」に連載さ…
「私小説名作編」のアンソロジーを読んで気になった庄野潤三「静物」を読むために図書館へ行き現代日本文学大系88(筑摩書房)を借りる。田中小実昌のエッセイ集も二冊借りる。「静物」を読み、村上春樹の解説を読んで納得する。 「第三の新人」として庄野…