INSTANT KARMA

We All Shine On

西村賢太

西村賢太さんを偲ぶの記

昨日のお別れ会に出席できなかったかたがたのために、配付された小冊子に載っていた貴重な写真をアップしておく。このブログの読者数なぞたがかしれているのでほぼ意味のない行為ではあるが。 ちなみに、2002年(平成14年)35歳の時に七尾図書館で講演した時…

Farewell My Dear

朝信号待ちをしていると立て続けに青い護送車が二台目の前を通り過ぎた。 今日はメルパルク・ホテルで西村賢太献花のお別れの会があるので行こうかどうしようか直前まで迷っていたが、阿部公彦教授のツイートでゆかりの品も展示されるというのを見、「ビバリ…

Yellowed Handwriting

黄ばんだ手蹟(『文學界』2018年1月号) 「陋劣夜曲」(『群像』2018年1月号)の下書きを終えた2017年11月21日の深夜の場面から始まる。ほっとして部屋にある清造の額を眺めていると、18年ほど前に作った扁額の中の書簡がずり落ちてしまっているのに気づく。…

Photographs

このところ自分でも意味の分からないままに熱中していた、西村賢太の日記(一私小説書きの日乗シリーズ)の抜粋を打ち込むという作業をようやく一通り終える。この間も毎日西村賢太についてブログに記事を書いており、ほとんど「寝ても賢太、覚めても賢太」…

なぜ藤澤清造なのか?

やがて彼は帰って来た。……五百枚にあまるその作を大切に抱えて…… われわれはほとほとその努力に感心した。…ということは、何のあてもなく、かれはその作を書いたのである。どこに掲載してもらえるあても、どこで出版してもらえるあてもなしにかれはその長編…

「野狐忌」2

1993年に西村が参加した田中英光展を主催したという「いわゆる無頼派作家の研究サークル」というのは、1990年に朝日書林から「仮面の異端者たち : 無頼派の文学と作家たち」という本を出版している「無頼文学研究会」という団体のことではないか。但しこの催…

「野狐忌」

西村賢太「田中英光私研究 第八輯」に収録された小説「野狐忌」は、今振り返ると、西村の生涯の一つの時期が終わる直前に書かれた、文字通り記念碑的な作品といえる。 この小説で最も重要な部分は、最初のほうにさりげなく書かれた箇所で、西村はたぶんその…

「室戸岬へ」3

もう一度問うてみる。西村賢太にとって田中英光とは何だったのか。 中学生のころからマニアックな探偵小説を読み耽り、いずれ小説家になりたいとの思いをふとこっていた少年が、田中英光の小説と出会って、異常な衝撃を受け、「ぼくの人生観は変わった」とま…

「室戸岬へ」2

私小説である以上、主人公の今の境遇というものが大切な問題になってくる。 <ぼく>は、高知で最初の夜に入った居酒屋で、偶々一緒になった客から仕事について尋ねられ、東京の神田で古本屋をやっていると答える。小説の初版本を売って食っているが、店はな…

「室戸岬へ」

この小説は、先にも書いた通り、田中英光の「室戸岬にて」という小説についての取材旅行記という形を取っている。 当時「田中英光私研究」という小冊子を発行していた西村は、精力的に全集未収録の英光作品を発掘、解題し、英光の旧友・関係者から聞き書きを…

「室戸岬へ」と「野狐忌」

国会図書館から西村賢太が「田中英光私研究」に発表した二つの小説の写しが届いた。 「室戸岬へ」と「野狐忌」である。 「室戸岬へ」は、「田中英光私研究第七集」での、田中の全集未収録の小説「室戸岬にて」の発表に合わせて書かれたもので、西村自身がそ…

Wild Fox in Cape Muroto

田中英光私研究第七集所載の小説「室戸岬へ」と同第八集所載の小説「野狐忌」の複写製品が届いた。 複写単価が25円、数量(頁数)59枚で1,475円、発送事務手数料250円の小計1,725円に消費税172円、これに送料390円が加算され、合計2,287円の請求となったが、…

慊い

私が、国会図書館の遠隔複写サービスというのを使って、西村賢太が「田中英光私研究」に載せた小説「室戸岬へ」と「野狐忌」のコピーを申し込んだのは、六月十七日のことであった。 はな、かような慣れぬ手段を取ることにしたのは、その日、日中に無理をして…

風味絶佳

西村賢太の人生は何てスタイリッシュでエレガントにできてるのだろう。 十五歳で家を出て、三十歳で藤澤清造の没後弟子となって、四十五歳で芥川賞を取り、五十五歳で亡くなる。若干の誤差はあるが、まるで計ったように十五年(最後は十年)刻みで人生の大イ…

A Born Stylist

週末は図書館で「本の雑誌」バックナンバーの「一私小説書きの日乗 這進の章」をコピーし、自宅でそれを打ち込む作業をしていた(全部ではなく抜粋)。 最後の日記は、今年の1月7日で終わっている。ちょうどそれが、藤澤清造の菩提寺西光寺での藤澤家代々…

憶測に次ぐ憶測(追記あり)

ゴキブリじみた一読者が死んだ作家に対するストーカーめいた詮索行為を続ける。 西村賢太は、「群像」2009年6月号に発表した小説「膿汁の流れ」の中で、つい最近まで世田谷区尾山台に本籍地があったと書いている。 彼の生まれは江戸川区だが、11歳の時に両親…

No Man's Literature Museum

購入。刊行に尽力された「本の雑誌」社杉江由次氏のコラムによると、連載元である「小説現代」の講談社では本にする予定はないと言われ、すぐさま単行本化することに決めたという。 そしてなんと、図書館に行き、掲載誌を全回分コピーすると、ご自分で一文字…

女地獄4

もはや単なる西村賢太ストーカーめいた粘着ブログになりつつあるが、 「一私小説書きの日乗」を何度も読んでいるうちに、あるキーワードが閃いた。 それは、 回転寿司。 何度も書いている通り、賢太は、約七年間、ある女性と半同棲生活を経てていた。 これは…

つれづれ

「コロナに感染した覚えがないのに」ある日突然、後遺症になった人についての記事がネットにあった。怖くて読む気になれないが、自分もそうなんじゃないかと思う時がある。目覚めが非常に悪くなったし、日中もぼんやりして脳の疲れを感じることが多い。だが…

女地獄(西村賢太)3

詮無き妄想を続けることとす。 前の記事で、2012年の正月には一緒に過ごす女性がいたかもしれない的なことを書いたが、これは誤りであった。 というのは、2012年3月16日(金)に「en-taxi」誌の企画でマツコ・デラックスと対談した際に、彼女を作ることは諦…

天狗

来週発売の西村賢太『誰もいない文学館』 www.webdoku.jp の予習として、国立国会図書館のデジタルライブラリーで 大坪砂男『閑雅な殺人』を開いて、 「天狗」という短編を読んでみたら、とんでもなかった。 この週末は、これでもうおなかいっぱいだ。

英光との出会い

西村賢太「やまいだれの歌」を読んでいる(再読)。 今朝はちょうど、貫多が田中英光全集第七巻と運命的な出会いを果たす場面だった。 よりにもよって、貫多と田中英光との出会いが、この全集第七巻だったというところに運命を感じずにはおれない(もっとも…

追悼・西村賢太(2)

「雨滴は続く」の最終回で、菱中という編集者から、 「こんなのは、藤沢清造という余り有名じゃない作家を持ち出してきて利用した、昔風の私小説の下手なパロディーに過ぎない、って言ってる人もいる」 との身も蓋もない指摘(「的外れの讒謗」)を受け、 平…

私のいない世界には私はいない

私小説に関してちょっと思ったことを書く。 よく高齢者などが、自費出版で「我が人生を振り返る」みたいな自伝を出版するケースが多いと聞く。 そういうのは、ほとんどが「私の人生を知ってほしい」とか「私の生きざまを伝えたい」という動機からだと思う。 …

追悼・西村賢太

『季刊文科』第88号をネットで購入し、勝又浩「追悼・西村賢太」を読んだ。 西村賢太の「芝公園六角堂跡」が文庫化される際に、西村は解説を勝又浩に書いてほしい、と指名してきたという。 ところが、勝又の書いた解説を読んで、西村は、これを採用せず、自…

私小説家―自力型と他力型

山本健吉「十二の肖像画」(講談社、1963)の上林暁を論じた章の中に、私小説家の根本の発想に、自力型と他力型の相違があると書かれている。倫理型と信仰型といってもいい。破滅派と呼ばれる作家たちは、多く他力型である。破滅することに、自分の救いを賭…

西村賢太の〈女地獄〉(2)

<一私小説書きの日乗シリーズ>から<買淫>を抽出するというアホな作業をしてわかったこと。 公開日記を開始した2011年4月から翌12年7月までは、およそ月1~2回のペースで<>に赴いているのだが、2012年8月から2013年2月までは一回もなし。2012年8月に…

北町貫多 甘ったれ迷言集

「文學界」で木村綾子さんが北町貫多の「罵倒アンソロジー」を作っていたので、もう一つの側面である「根が甘ったれ体質にできてる」貫多の名言集を選びたくなった。 DV癖と甘ったれ癖はどうも表裏一体のようで、こっちの名言集は、これ単独で見るよりも、「…

西村賢太の(芥川賞以後の)〈女地獄〉について

西村賢太の「(芥川賞以後の)女関係」について、<日乗シリーズ>を分析してみようと熱中し始めたのだが、「葛山久子の手記」を読んで、何だか真面目に考察するのが馬鹿馬鹿しくなってきたので(その理由については、改めて書く)、もう投げやりに、思いつ…

My Dear

『文學界』七月号「特集西村賢太 私小説になった男」購める。 この号の目玉は、なんといっても、「雨滴は続く」の登場人物のモデル葛山久子による手記「親愛なる西村さんへ」。 こんなに読みたくなる記事はそうはないよ。というわけで開店と同時に本屋に走る…