ビートルズが20世紀の人類に一種の意識革命を起こしたことは疑う余地がない。
たかが音楽になぜそこまでのことができたのかは分からない。でもそれは起こったのだ。
ビートルズの初期のアルバムを今でも聴き返してみればいい。それは奇跡だ。
ただの四人の若者が、彼ら自身意識せずに、違う次元の世界か何かのメッセージの媒体となったのである。
ジョン・レノンは、四人の中でもっとも“意識的な”言いかえれば“スピリチュアルな”ビートルだった。
ジョージ・ハリソンの影響で、一時インド哲学に関心を寄せたが、表面的にはすぐにそれを捨てている。ソロになってからの最初のアルバムでは「ぼくはクリシュナやヨガやギータを信じない」と叫んでいる。
しかし、その思想は彼の精神の深い場所に衝撃を残し続けた。
ひげを生やし、ヨーコと出会ってからの執念のような平和活動はその表れだろう。
彼は数百の名曲をつくったが、ソロ第1作の冒頭の「マザー」という曲がいちばん好きだ。シンプルで魂に訴えかけるものをもっている。
この一曲で、彼が並ぶもののいない存在だということが分かる。
神がかったような“ビートル”ではない、人間ジョンレノンのむき出しの表現だ。
母/ジョン・レノン
母さん、ぼくはあなたのものだった
でもあなたはぼくのものじゃなかった
ぼくはあなたがほしかった
でもあなたはぼくがほしくなかった
だからぼくはこう言わなきゃいけない
さよなら、さよならと
父さん、あなたはぼくを見捨てた
でもぼくはあなたをけっして見捨てなかった
ぼくにはあなたが必要だった
でもあなたにはぼくは必要じゃなかった
だからぼくはこう言わなきゃならない
さよなら、さよならと
子どもたち、ぼくがやったようなことをするな
ぼくは歩けもしなかったのに走ろうとした人間だ
だからぼくはきみたちにこう言わなきゃいけない
さよなら、さよならと
母さん、行かないで
父さん、帰ってきて
母さん、行かないで
父さん、帰ってきて・・・