INSTANT KARMA

We All Shine On

BAD

『スリラー』がバカ売れしてから,新作『BAD』が出るまで,マイケルへの世界の期待度の高さは尋常なものではなかった。

一体どんなすごいものが出てくるのか,『BAD』の完成を固唾を飲んで見守っていた。

今から考えれば,音楽シーン全体を牽引していくような音楽的クオリティを当時のマイケルに求めるのは間違っていたし,80年代後半において,その役割は『パープル・レイン』で大ブレイクしたプリンスが担うことになるのだが,とにかくマイケルの新作に誰もがマジックを期待したのはやむを得ないだろう。

そして,マイケル自身,渾身の力を振り絞って,その期待に応えようとした。

その結果が,『BAD』である。

当時の最先端であるヒップホップを意識したと思しきタイトル・チューンは,マイケルなりに当時の音楽シーンを分析し,全力を尽くしたことがよく分かる曲に仕上がっている。だが,残念ながら,何かがズレているという感も否めなかった。

たとえてみれば,未来派を志向する余り滲み出てしまうレトロ感のようなもの。

これとは対照的に,時代にジャストフィットしたのが,マイケルの妹ジャネット・ジャクソンの『コントロール』以降の,ジャム&ルイスと組んだ一連のファンク・アルバムだった。ジャネットの作品は疑いなく当時の音楽シーンの最高峰に位置するものだった。

『BAD』収録のその他の楽曲も,「すごい」とは思わせるのだが,「スリラー」とは違い,いつも傍に置いておきたい愛聴盤となるのを拒むかのようなオーラをなぜか放っていた。

やはり特筆すべきはSFで,『BAD』の気合い入りまくりのダンスもさることながら,『ザウェイユーメイクミーフィール』でのマイケルの魅力的な佇まいは輝きを放っていたし,『スムーズ・クリミナル』のクオリティの高さはとんでもなかった。100年後にも見る価値があるビデオだろう。

結果的に,マイケルは『BAD』をもってポップ界のカリスマとしての頂点に立ち,以降は凋落の一途をたどることになる。

つづく