INSTANT KARMA

We All Shine On

This Is It 雑感その2

観に行った人たちの多くが,印象に残るシーンとしてあげている部分がいくつかある。

たとえば,コーラスの女の子とデュエットのリハをした「I Just Can't Stop Loving You」で,思わず本気になって歌ってしまったマイケルが,「まだ声のウォーミングアップ中なんだから,本気で歌わせないでよ!」とおどけた様に言うシーンがある。

僕は1回目にこれを観たときは,マイケルが思わず曲にノッて熱唱してしまい,後で照れ隠ししていると思ったのだけど,2回目では違っていたことに気付いた。

マイケルはあのとき,自分の前で物怖じして全力で歌えないでいる相手の声を引き出すために,「本当はそうすべきではない」のだけど,無理をして歌ったのだ。

マイケルは「本気で歌わせないでよ!」とスタッフに向けて言ったように思わせているが,本当は相手の歌手に,「もっとエモーショナルに歌っていいんだよ!」という意味を込めて激励したのだと思う。マイケルが女の子のエモーションを引き出そうとしていたことは,最後の掛け合いの部分を見ればよくわかる。

同じようなシーンに,マイケルが「Black Or White」のリハの最中,女性ギタリストに対して,「ここは君の見せ場だから,思いっきり高い音を出して響かせて! 僕がそばにいてあげるから」と言う場面がある。

ここにマイケルの優しさが表れていると感動した人も多いようだ。僕も同じように感じた。

しかし同時に,ここはマイケルのプロの視点が感じられる場面でもある。マイケルは常に「観客が一番喜ぶにはどうすればいいか」のみを考えている。一見当たり前のことに思われるが,マイケル程のスーパースターが,この視点を終始一貫してまったくブレなく保っていること,「自分だけをカッコよく見せる」という打算なしに「どうすれば一番いいステージになるか」のみを追求していることは,僕にある種の感動を与えた。

本番のステージでは決して見せない,マイケルの客観的なプロ意識や人間性が垣間見える部分だ。

ファンにとっても,こういうところを初めて見た人は多いのではないか。リハが映像化されたメリットはこんなところにもある。