CSで放送していた北野武監督『みんな〜やってるか!』と『キッズ・リターン』を観た。
『みんな〜やってるか』は、バイク事故直前の北野の不安定な自我がモロに出た映画で、ほとんど自暴自棄になっていたのではないかと思えるほどメチャクチャな出来だ。
『ソナチネ』で北野武という男を殺し、『みんな〜やってるか』では芸人ビートたけしを葬りたいという無意識の願望が表現されたのではなかろうか。
ちょっと評価しようがない作品だった。
『キッズ・リターン』は、バイク事故から復帰した監督第1作で、ここには「死への志向性」から転換した北野の「生への志向性」が表現されている、とも評されているようだ。
確かにそういう見方はできると思う。
何よりも、これは青春映画だ。青春映画に付きものの恋愛は(少なくとも前面には)出てこないにしても。
そして、ボクシング映画でもある。
このままいくとチンピラにでもなるしかないような、うだつの上がらない高校生2人が、それぞれに夢を追いかけようとして、挫折する。その過程が、リアルに描かれている。
映画の冒頭と最後のシーンはつながっていて、その間に、2人がそれぞれに過ごした密度の濃い日々の様子が挟まれている。
先にこれは青春映画だと言ったが、ちっとも甘酸っぱくはない。見方によってはひたすら苦々しいだけだ。北野はこれらの若者たちの姿を、これまでの映画と変わらないハードボイルドなタッチで描写している。
しかし、ここに描かれているのが人生の黄昏を迎えた男ではなく若者たちであるという事実と、彼らが最後に交わす印象的なセリフによって、この映画は、これまでの作品とは違って、「生きることへの志向」を感じさせるものになっている。
彼らに輝かしい未来が待っているかどうかは分からない(だぶんそうではないだろう)が、少なくとも彼らは「まだ終わってはいない」からだ。
通常なら「俺たちはまだ終わっちゃいない」というセリフで締めてもいい映画を、北野武はもっと印象的なセリフで締めた。
僕はこれまで順番に見て来た北野映画から「虚無」というメッセージを受取り続けて来た。
しかし、この映画で初めて提示されたのは、「虚無」ではなく、あらゆる可能性をその中に内包した「実存のゼロ地点」だと思った。
だから、彼らの人生は「まだ終わってはいない」のではなく、「まだ始まってもいない」のだ。
この「キッズ・リターン」によって、北野武の映画が新しい地点に立ったということは確かだと思う。
これからどうなるか楽しみだ。
次は「HANA-BI」だ。