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ドキュメンタリーとは何か

えらく大層なタイトルですが、今回の記事のテーマは女優の北川景子さんです。

BSプレミアムで、北川景子×地中海 女神たちを探して』と題するドキュメンタリー番組が前後編2回にわたり放送されました。

北川さんが、その番組に出演した感想を、ご自分のブログ(9月8日付)に綴っています。

例によって北川さんらしい、長文の、とても真面目な考察が述べられています。

少し(といってもかなり長めになりますが)引用させてください。

昨日で無事に『北川景子×地中海 女神たちを探して』前篇、後篇の放送を終えました。

ミロのヴィーナスの神秘のルーツをさぐる地中海の旅ということで二週に渡って放送されましたが、いかがでしたでしょうか。

ドキュメンタリー番組は今回で二度目の挑戦となりましたが、やっぱりとても難しかったです。

ドキュメンタリー番組には「こうしなくてはならない」という正解はありませんし、ハプニングは常なので、怖がらず、自然に起こることを楽しんでやってください、と事前に伺ってはいたのですが、やはり地中海へ向かう飛行機の中ではとても不安でした。

せっかく行って、もし、聞きたいようなお話が出てこなかったら。

もし、収穫がなかったら。そう考えると恐ろしかったです。

ロケが始まって何日間かは、「これでいいのだろうか」「尺は足りているのだろうか」などと番組の構成を考え出す度に怖くなり、いやいや集中、集中、と雑念をかき消すことに精一杯でした。

毎晩ホテルに戻り、もっとうまくお話を引き出すことが出来たのではないか、あの時自分はこう切り返すべきだったのではないか、などとロケを振り返ると後悔と反省ばかりで、明日こそうまくやろう、と思うのに、結局次の日も打ち砕かれ(笑)

自分がやっていることが正しいのか自信の持てないまま、漠然と旅の半分が終わってしまいました。

なぜ、うまくいかないのか。なぜ、満足できないのか。

とことん考えて一周した時に、ふっと「何が起こるかわからない。こう返してくるだろう、という予想通りの答えはもちろん返ってこないし、ハプニングもある。文化が違うから、通訳さんがいても会話が噛み合わない時もある。でも、それがドキュメンタリーなんだよ」と

各場面で常にディレクターさんがおっしゃっていた言葉が蘇りました。

そして、「ドキュメンタリーとは何か。どう動き、どう表現することがドキュメンタリーなのか?」と、頭で考えながら必死に進めてゆくのがドキュメンタリーではないんだと、気が付きました。

考えるのではなく、感じるべきであり、ドキュメンタリーは正解を探すことではない。

真実をありのままに歪曲せずに残し、伝えることである。

そう気が付いてからは、その確信をもって、旅の後半は”今この瞬間”を楽しめました。

今自分はどうするべきなのか、視聴者に今は何を一番にお伝えするべきなのか、と色々と拘っていた旅の前半よりも、その時、その瞬間にしか感じられないこと、そこでしか出会うことのできなかった方との出会いに対する感動、その瞬間にしか出てこない感情、言葉、表情を恥ずかしがらずに、頭で考えずに残すことが大切なのだと思い、そのように行動した旅の後半の方が、本物の今という瞬間を残せた気がしました。

この旅で、その時、その場所で、その人としか生まれないドキュメンタリーを撮ることの素晴らしさを感じました。

ひとつとして同じものはないわけですし、かけがえのないものを作っているんだという責任感と緊張感を感じるお仕事でもありました。

ついつい正解を探そうとしてしまったり、こうあるべき、という概念にとらわれてしまいがちな自分の価値観を壊す良い経験にもなりました。

もしかして人生も、お芝居も、こういう自分の捉われた概念や価値観によって自分が難しく、複雑にしてしまっているのかもしれないなと思いました。

もっとシンプルにあるべきなのかもしれない。

頭でっかちな私は、もっと素直に感じたままに生きられたり、お芝居ができたらもっといい。

そう思えるようになったのは、この旅のおかげです。

(そういえば、シカクいアタマをマルくする、なんて教材があったな…。)

もちろん、そう思ったからといって、すぐに性格を変えられるわけでも、明日すぐに自分が変われるわけでもありませんがそう思えたことが私にとっての大きな変化です。

10周年という節目の年に、このような機会に恵まれて、本当に良かったです。

一緒に旅をして下さった、プロフェッショナルで、心温かいクルーの皆様に心から感謝しています。

オンエアを改めて見たら、あまりに自分の語彙と表現力が少なくて赤面しましたが、初めての地中海、見るものすべてが新鮮で、壮大で、どこへ行っても何を見ても、第一声に「すごい…」と、ため息を漏らすしかなかったも真実のようにも思います。

これまた初めてのことでド緊張して、冷や汗をかきながら吹き込んだナレーションも、随分拙かったですがその時の自分のできる精一杯のドキュメンタリーだったのかなと納得することにしました。

見てくださった皆様、ありがとうございました。

もっと人間として大きく、深くなれたら、良いドキュメンタリー番組が作れそうです。

ドキュメンタリー、とても興味深いです。またいつか挑戦できますように。

その日まで、日々精進です。

北川さんの特徴である綿密な思考様式が長文という形式自体によって表現されている関係上、敢えて省略せずほぼ全文引用させていただきました(ちなみにブログ本文はさらに続きます)。

まず冒頭、私は、そもそもこの番組を「ドキュメンタリー」というよりは、「女優北川景子のイメージビデオ」くらいの軽い認識で捉えていたことをお詫びしなければなりません。

まだ録画した番組のすべてを見ていない段階でこの文章を目にした私は、北川さんがこれほど真摯に思い悩みながらこの番組と取り組んでいたのだという事実を思い起こしながら残りの番組を見ることになるでしょう。

私が北川景子という女優に共感するのは、私自身が「頭でっかち」で、「ついつい正解を探そうとしてしまったり、こうあるべき、という概念にとらわれてしまいがち」な人間だからだと思います。

だから北川さんが綴っているような葛藤はとてもよく分かりますし、自分も日々直面する問題です。

今回のドキュメンタリーを通して北川さんが到達した結論は、

Don't think ! Feel ! (考えるな、感じろ!)

という、あのブルース・リーの名言を思い出させるものでした。

私もまた北川さんの意見に強く共感するものですが、この結論を「頭でわかる」ことはまた堂々巡りの始まりにしかならないという悩みもまた抱えています(おそらく北川さんにとってもそうではないかと邪推いたします)。

もっとも、唯一つ言えることは、このような「頭でっかち」な部分が北川景子という女優、というより北川さんという人間の最大の魅力でもあるということです。