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能年備忘録

※8月13日一部追記と修正

※8月14日追記

映画『ホットロード』の宣伝活動が思った以上に凄まじい。

全国各地の上映会に顔を出し、地元メディアの取材を受け、雑誌媒体への登場は100を超える。

もちろんテレビにも出まくっている。

これまでの「能年ロス」を一気に埋め合わせるような勢いで、こういう波は次に映画『海月姫』のプロモーションの時まで来ないと思うので、この機会に気が付いたトピックを備忘録的にまとめておく。

 

●テレビ

いろんなテレビ番組にゲスト出演しまくっている主演の能年と登坂の二人だが、能年単独で出演した番組の感想と気が付いた点。

 

とんねるずの食わず嫌い』(8月7日放送)

石橋に「久々に難しい子だ」と言われながら、「52歳の友達」トークで盛り上がった。52歳の友達とは、ファンならよく知っている、演技指導の滝沢充子先生のことだ。滝沢先生と能年との関係については、「あまちゃんメモリアルブック」という本に詳しいインタビューが載っている。有名な「生ごみ」発言は先生から言われた一言に由来する。

滝沢先生のレッスンがきっかけになって演技に目覚めた能年は、「あまちゃん」の主演が決まってからも、台詞の読み合わせを一緒にやったり、台本の解釈について議論を戦わせたりと、非常にお世話になっている。以来、先生と生徒と言う枠を超えて、プライベートでもよく遊ぶ仲になっているようだ。

偶然にも先生の住んでいる祖師ヶ谷にある木梨の実家の自転車ショップで自転車をプレゼントされるという企画もあった。

驚いたのは、罰ゲームで「とんねるずの物まね」を披露したこと。しかも、30年前のお笑いスター誕生でのネタというめちゃくちゃマニアックなものを採用するあたり、やはり普通ではない。

 

嵐にしやがれ(8月9日放送)

嵐の5人と武蔵野美術大学を訪問するという企画。明らかに能年側の意向だろう(あるいは番組側が気を遣ったか)。せっかく能年の芸術的センスを発揮する舞台が整っていたのだが、時間不足で存分に披露できなかったのが残念。最後に「芸術とは?」と聞かれた能年が、「芸術とは、疳の虫だ」と答えたのに対して、嵐が「???」となってしまう場面があった。

「疳の虫」というのは、能年がインタビューでしばしば口にする言葉で、現実世界との関わりの中でイライラ、ムシャクシャすることから起こる内面的な衝動といったことか。親しい友達からは「疳の虫野郎」と呼ばれているらしい。

 

●雑誌

すごい数の表紙を飾っているが、地下鉄などで無料配布されるPR紙なんかも結構多い。来たオファーは全部受けたという感じ。

 

すばる

文芸誌『すばる』の巻頭インタビューで、インタビュアーの中森明夫氏が「役の女の子(和希)が憑依しているようだ」と言ったのに対して、「憑依ではなくて、役について自分が解釈したとおりに演技している」と反論した。憑依というと、何も考えずにフィーリングの赴くままに振る舞っているだけと思われがちだが、そんなもんじゃないと言いたかったのだろう。このあたりの真意は下記の『キネマ旬報』のインタビューを読めば明らかになる。しかし自分は、(中森氏も言っているように)能年玲奈の最大の魅力は、考えに考えた挙句、最後にはそれをすべて手放すことのできる能力にあるような気がする。このあたりは改めて考えてみたい。

 

クイック・ジャパン

Quick Japan vol.115にインタビュー記事が掲載されている。能年は2年前にも同雑誌でインタビューを受けていて、自分はそのときの見開き記事の写真に衝撃を受けた。

奇跡の一枚だと思った。

ラファエロルーベンスレンブラントの絵画以外でこんな人間の顔を見たことがなかった。

今回のインタビューでは、能年が画集を見て影響を受けたという宇野亜喜良氏からのサプライズ・プレゼントがあったり、インタビューの中身も他誌では見られないようなものが含まれている。

たとえば、昨年8月からの20歳の一年を振り返って、「もったいない1年だった」と発言している。「もっとがんばればよかった」と、あまちゃん以降の仕事の少なさに本人も物足りなさを感じていたことが窺える。確かに20歳の能年玲奈の表情を画面でもっと見たかった気がする。

ホットロード」は何回も見返しているそうで、自分の演技や表情を相当細かくチェックしているという。「ホットロード」の中で、ある演技(表情)を尾美としのりに「初めて見た」と指摘されたといい、自分もそこは気になった場面なので、改めてスクリーンで確認してみたい。

 

キネマ旬報

硬派な映画雑誌の表紙を能年玲奈のような「アイドル」女優が飾るというのも珍しい。それだけ映画関係者の期待も大きいのだろう。

能年自身のインタビューに加えて、ホットロード監督の三木孝浩氏、あまちゃんDの井上剛氏のインタビューも収められている。能年玲奈が、ブレイクした自分のイメージをいかに保つかに細心の気を配っていたことを自身の口で明らかにしている。そのために角川映画薬師丸ひろ子の演技を研究したという。

能年が「ホットロード」の演技に苦労した理由は、素の自分(またはあまちゃんのアキ)とキャラクターのまったく違う和希を演じなければならなかったからではなく、和希というキャラクターを演じながら同時に能年玲奈のイメージ(天野アキのイメージ)をいかに保つかという課題に取り組んでいたからだ。

そしてこの課題は、監督から提示されたものではなく、能年自身が自らに課したものだった。監督からは「演技するな」と言われ、そこでも葛藤があった。「あまちゃん」の直後に「天野アキ」みたいなキャラクターでテレビ・ドラマに出演するというオファーもあったようだが、それを断っている。ある意味では、安易な道を選ばず、敢えて困難な道を歩んだといえるかもしれない。

あるインタビューで、能年はこのように答えている。

――では、『ホットロード』の撮影を経て、自分が成長したと思うところは?

【能年】 踏ん張れるようになったかな。私だと認識してもらえる演技を、この役で軸をブラさずにやるのがすごく難しかったのでヘニャッとなりそうなときがあったんです。冒頭の万引きをした後のシーンとか、家で何も食べずにじっとしているところからワッとなっちゃうシーンとか。でも何とか踏ん張って、ブレないところでやれたと思います。(オリコン・スタイル、斉藤貴志氏によるインタビューより)

ここで能年が言っているのは、女優として非常に難易度の高いことだと思う。

ここで能年は、「心に傷を持ち不良少年と恋に落ちるヒロイン」であるホットロードの和希という役を演じることは当たり前にできるという前提で、敢えて不良(傷ついた少女)を完璧に演じるのではなく、能年玲奈という女優について観客が抱いている「アイドル」というイメージを裏切らないような形で和希を演じるという演技をやるのがすごく難しかったと言っているのだ。

つまり、能年玲奈は本質的にアイドル女優ではないということが逆説的に暴露されているということだ。

言い方がまずくて意味が分かりにくかったらすみません。

能年玲奈が根っからのアイドル女優だったら、こんな苦労はしなくていいはずだ。彼女が何を演じようが、彼女の演技からアイドル成分が否定し難く滲み出してしまうはずだから。いわゆる「アイドル映画」というものの魅力はそこにこそあるのだ。

ある人は、「アイドルとは“解れ(ほつれ)”である」と上手いことを言っている。

能年玲奈は、演技がうますぎるので、和希を演じようと思えば完全に和希になりきることができる。天野アキになりきったのと同じように。

でもそれでは、「天野アキ」のイメージを抱いて見に来るお客さんを戸惑わせてしまうから、「天野アキ」成分を盛り込むよう努力してみましたと。もちろん真逆のキャラクターだから、そんなことはできないのだが、「天野アキ」の中にある「能年玲奈」という女優の軸(本質)は、和希の中にも盛り込むことには成功したと言っている。

これを意識的にやっているというのが能年玲奈のすごいところだ。

能年の「アイドル性」が発揮されるのは、バラエティに出演した時に「解れ」まくるところで、ほとんどの視聴者はこれに騙されるのだが、能年玲奈はアイドルでもなければバラエティタレントでもない、とてつもなく思慮深い女優(それも桁違いの才能の持ち主)なのである。