ジョン・レノンがビートルズを解散して初めて作ったソロアルバム『ジョンの魂』に、「ゴッド(神)」という曲が収録されている。
その曲の出だしは、こんな歌詞で始まる。
「神とはわれわれの苦痛を測る概念である」
" God is a Concept by which we measure our pain "
この言葉を繰り返した後で、ジョンは、これまで信じてきたあらゆるものを否定する。
「僕はマジック(魔法、奇跡)を信じない
僕は易経(I Ching)を信じない
僕は聖書を信じない
僕はタロットを信じない
僕はヒトラーを信じない
僕はケネディを信じない
僕はブッダを信じない
僕はマントラを信じない
僕はギータ(インドの聖典)を信じない
僕はヨガを信じない
僕は王たち(kings)を信じない
僕はエルヴィス(プレスリー)を信じない
僕はツィンマーマン(ボブ・ディラン)を信じない
僕はビートルズを信じない
ただ僕だけを信じる
ヨーコと僕だけを
それがリアリティだ
「神とはわれわれの苦痛を測る概念である」という言葉の「神」を、あらゆる観念に置き換えることができる。それを「アートマン」とか「真我」という言葉に置き換えてもいい。結局のところ、それらはすべて人間が生み出したものだ。
人間が、自分の苦痛を和らげるために、何とかして作り上げた観念にすぎない。
苦痛が強ければ強いほど、それを打ち消すための観念は洗練され、高尚なものになっていく。しかし、その気高く美しい観念の裏には、ただ苦痛がある。
人間は、自己が永続することを求める。それが、キリスト教では神や天国の概念を生み出し、インドでは永遠不滅の我(真我、アートマン)という概念を生み出した。
しかし、そうした概念は、「苦しんでいる自分」、「永続することを求めている自分」という「あるがままのもの」に直面することを妨げる。
しかし、真に直面した時、「苦しんでいる自分」というものは存在しないことが分かる。固定した不変の自分など存在しない。ただ常に変化し流転していく世界があるだけだ。それがリアリティだ。