INSTANT KARMA

We All Shine On

If He Was Your Girlfriend

彼は私が世界で一番好きなギタープレイヤーだった。だから彼に恋したの。「サイン・オブ・ザ・タイムズ」のツアーで『パープル・レイン』をやってた時だったわ。私は目を閉じ、至福に浸って泣きそうになるほどだった。目を開けると、結婚しないかって言われたの。私は「イエス」みたいな返事をして、二人ともプレイを続けた。最初は友達で、それから恋に落ち、それから別れた。それから兄妹みたいになったわ。彼のことはハニーとかベイビーとか呼んでた。彼は私の相棒だった。音楽は彼の人生であり、彼は音楽のために生き、死んだの。それが彼の遺産ね。

シーラ・E

生前無数の女性とLove Affairを重ねたプリンスは、50歳を超えてからは禁欲主義者になったと言われている(禁欲も何も、やりたいこと全部やり尽くしてもう自然から打ち止めを食らったに違いないと思うのだが)。彼は才能のある女性シンガー、ダンサー、アーティストを好み、有望な若手をYOUTUBEでチェックし直接連絡することもあったと言われている(禁欲後なので必ずしも下心があったわけではないと思う)。

80年代にそんな女性アーチストとのコラボで一番成功したのが、パーカッショニストシーラ・Eとの共同作業だろう。「グラマラス・ライフ」(僕らの世代では石川秀美の「もっと接近しましょ」とセットで記憶されていると言われている)や「ラブ・ビザール」などの作品群は、プリンスの全キャリアを通じてもかなり上位に来る名曲であると思う。

シーラ・Eはその後もプリンスのバンドのドラマーとして「サイン・オブ・ザ・タイムス」ツアーや「ラブセクシー」ツアーに参加している。この頃のシーラ・Eは本当に「いい女」で、肉体的・官能的な魅力を爆発させていた。

プリンスと共作した女性アーティストして筆頭に来るのは、ザ・レボリューションのウェンディ・アンド・リサだが、シーラ・Eの魅力とはまた違った「知的な文系女子」風の魅力があって、美術的センスを感じさせる二人の佇まい(レズ関係にあったとも言われている)には非常にそそられたものである(この場合“劣情”ではなくもっと“高尚な”感情を 笑)。

同時期に、シーラやウェンディ&リサほど有名ではないが、ジル・ジョーンズという女性歌手とも共作している。彼女は、「パープル・レイン」でプリンスと共演したアポロニアほどセクシーではないが、プリンスの幼馴染キャラ的なコケティッシュな魅力があり、彼女の出したアルバム(「ジル・ジョーンズ」)は音楽的にも非常に優れていて、プリンス関連作品の中でも最上位に来るのではないかと思っている(「Gスポット」とか曲名はかなりヤバめだったが)。その頃NHK・FMで毎週日曜日の夜に放送していた渋谷陽一の番組でジングルとして使用されていたことを懐かしく思い出す。

キャット・クローヴァーというダンサーも忘れ難い一人だ。「サイン・オブ・ザ・タイムス」のジャケットに顔を隠して登場し、プリンスの女装かと騒がれた記憶がある。インパクトのあるダンスで「サイン・オブ・ザ・タイムス」と「ラブセクシー」のツアーでプリンスの次に目立っていた。

その次は、プリンスの正妻になったマイテ・ガルシアということになるのだろうが、正直この人には個人的にあまりいい印象がない。彼女との間に生まれた子供が死産(と流産)だったことがプリンスの生涯に暗い影を落としたと言えるだろう。この人のために書いた「ザ・モースト・ビューティフル・ガール・イン・ザ・ワールド」という曲も僕にとってはイマイチで、この頃のプリンスは、レコード会社とのトラブルもあり、アーティストとして(そして彼の人生においても)低調な時期だったような気がする。

こんなことを言っても仕方がないが、プリンスがマイテではなくシーラ・Eと結婚していれば幸福なカップルになれたんじゃないのかなと思っている。ただしシーラはマイテよりも自尊心が高そうなので、自分に(見せ掛けでも)完全服従する女性を求めるプリンスの性格では所詮一緒にはなれなかったのかなとも思う(後年プリンスの性格が円満になってからはとてもよい関係だったようだ)。

Boni Boyer(ボニ・ボイヤー)という女性ボーカリストも強く印象に残っている。彼女は純粋に音楽的な協働者として「ダイヤモンズ・アンド・パールズ」などの作品でインパクトのある仕事を残した。

惜しくも1996年に亡くなったが、今頃天国で二人で仲良く歌っていることだろう、と思いたい。

松浦理英子はプリンスの追悼文(「少数者の王子」現代思想2016年8月臨時増刊号所収)の中で彼の女性観についてこう指摘をしていて、面白いと思ったので引用する。

…私が最も感動したのは自分の小説の中にも引用した If I Was Your Girlfriend だった。男性性を完全に放棄して女性と女同士のように親密なお喋りを交わしたり世話をし合ったりしたいというラブ・ソングであり、 I Would Die 4 U の具体的ヴァリエーションであり、女性賛歌ともいえる名作である。

性的な対象は女性であっても精神的には女性が嫌いなミソジニストがうようよいた80年代に、社会的には異性愛者であり生物学的には男性である人物が、このような感性を持ちこのような発想ができるのを知ったのは、大きな驚きであり震えるほど嬉しかった。プリンスは心から女性が好きなのだと思う。私が女性に生まれてよかったと思える最大の理由は、プリンスが女性が好きだからということ以外にはない。

プリンス自身もこう語っている。

プリンスはガールズ・バンドを特に望んでいた。そしてメンバーをYouTubeで探していた。さかのぼること2010年に、ニールセンをMyspaceで発見していた。「世の中は女子ブーム」と彼は言う。「今はそんな社会。近いうちに女性の大統領が誕生するだろう。男は来るところまで来てしまっただろ? ボクは男性から学ぶより、女性から学んだ方がずっと吸収が速い。男であることの意味は、ある時点で知るようになるはずだが、女であることの意味について、君は何を知っている? 君は人の話の聞き方を知っているか? 大抵の男は聞き方を知らない」(2014年ローリングストーン誌の生前最後のインタビューより)

If I Was Your Girlfriend/Prince

 

もしも僕がきみのガールフレンドだったら 

僕がきみの彼氏だった時にきみが忘れたことを全部僕に話してくれる?

もしも僕がきみの一番の親友だったら

きみの世話をさせてくれる?

一番の親友にしかできない全部のことを

親密な友達にしかさせてあげないことを

 

もしも僕がきみのガールフレンドだったら

きみに服を着せてあげてもいいかな

たとえば、出かける前に何を着るかを選んだり

きみのセンスが絶望的っていう意味じゃないよ

でも、時々は、そうすることが恋してるってことだと思うんだ

 

もしも僕がきみのたった一人の友だちだったら

誰かが君を傷つけたときに 僕のところに逃げてきてくれる?

たとえその誰かが僕だったとしても

時々舞い上がってしまうんだ 僕たちがどれだけ幸せになれるだろうって

 

もしも僕がきみのガールフレンドだったら

きみの髪の毛を洗わせてくれる? 時々きみに朝食を作ってあげてもいいかな?

それとも、ただぶらぶら散歩したりして

たとえば映画を観に行って一緒に泣いたりとか

だって僕にとってそれはすごく素敵なことに思えるんだ

きみに服を着せてあげてもいいかな?

出かける前に一緒に服を選んだりとか

いやそれは、きみのセンスが不安だからっていうんじゃなくて

恋をしてるってそういうことなんじゃないかと思うんだ

今夜僕が言ってることが分かる?

ちょっと自己中になってるかもしれない

でも、僕は、僕にとっての君の全部―その全部に僕もなりたいんだ

分かるよね?

きみが服を脱ぎたいというだけで僕は部屋を出ないといけないのかな?

愛しあうのは子どもをつくるためだけじゃないよね?

愛しあうのはオーガズムを得るためだけじゃないよね?

きみの身体は僕のすべてなんだ

見せてくれるかな? 僕は見せるよ

なぜなら僕はきみの友だちだから 

僕はきみの前で裸になれるよ

裸になったら、何をすればいい?

どうしたらそれが素敵なことだって分かってくれる?

ただ僕を信じてくれないかな?

もしも僕がきみのガールフレンドだったら信じるよね?

きみのために裸でバレエを踊ろうか?

どうすればいい?

もしも僕がきみのガールフレンドだったら教えてくれる?

きみの裸を見せてくれる?

きみをお風呂に入れさせてくれる?

きみを思いっきりくすぐっていっぱい笑わせたり

きみにキスをさせてくれる?

ほら、あの大切な場所に

うまくやるよ 一滴残さず飲むよ

それからきみをきつく抱きしめてずっと抱きしめる

そして一緒に、静かに見つめよう

それがどんな風に見えるか想像しよう

静寂がどんな風に見えるか想像しよう

さあ・・・