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透明の棋士

少し前から気になっていた本を買った。

新聞記者による棋士をめぐるエッセイ。

将棋本にはいくつかの種類があって、(1)プロ棋士による定跡本や実戦譜など、将棋の勉強のための本。(2)観戦記者や将棋関係者による、将棋界の内幕本。先日の記事に書いた先崎学九段のエッセイなどもこれに含んでよいだろう。(3)将棋界の外部の作家や評論家が棋士や将棋について書いた本。古くは高木彬光沢木耕太郎によるエッセイや、最近では梅田望夫による著作など。

この作者は報知新聞の文化社会部の記者なので、上の分類では(2)に属する本なのだが、沢木耕太郎の影響を感じさせる筆致からは、(3)が持つ文学性(?)も備えているように思う。

この『透明の棋士』は、比較的薄く、難しい指し手の解説もないので、売り文句の「コーヒーと一冊」という感覚で気軽に読める。その上、内容は秀逸である。

棋士について書いた本がほとんど例外なく面白いのは、棋士という取材対象が「無垢な鬼」という稀有な属性を備えた人種であることによるだろう。

この『透明な棋士』に登場する棋士たち(三浦弘行中村太地里見香奈瀬川晶司ら)は皆、接しているだけで心が洗われるような爽やかで真摯な人々である。現代社会にこんな人たちが本当にいるのか、とまるで別世界の出来事を見ているようだ。

中でも羽生善治が、王将戦七番勝負の最終局を前にして、体調不良で半年間の休場を発表した里見香奈の女流名人就位式にふらっと現れたというエピソードを読みながら、気が付くと落涙していた。

大山や升田、芹沢博文米長邦雄の泥臭い人間模様もいいが、このような、少し美化されすぎていないか? とさえ思われる(しかしそうではないことも知っている)純化された人々の記録というのもいいものだ。

この著者によるもう一冊の著書『等身の棋士』も読んでいる。こちらには藤井聡太も登場する。