INSTANT KARMA

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泣き虫しょったんの奇跡

今年の秋に松田龍平主演で映画化が決定している、瀬川晶司五段の自伝を読んだ。

解説を書いている大崎善生氏の『将棋の子』も奨励会員の壮絶な人生を追った素晴らしいノンフィクションだが、これは自身が奨励会員として三段リーグの残酷さを身を持って体験し、いったんは挫折し、「これで本当に僕は死んだ」という心底からの絶望を味わった青年が、将棋界の歴史であり得ない奇跡を起こして35歳のプロ棋士となる軌跡を綴った、超一級のノンフィクションであった。

なぜこんなにも感動的なのか。それは決してフィクションではない、生身の人間の人生がそこにあるからだ。

藤井聡太の29連勝の奇跡に日本中があれほど沸いたのは、それがマンガや小説の世界ではなく、実人生の中で起こった出来事だからだろう。

羽生善治藤井聡太のような天才とはある意味で対極にあるといってよい瀬川晶司棋士としての歩み(瀬川は羽生と同い年である)、その懊悩と絶望と希望と勇気に、読者は深く感情移入せずにおれない。

最近映画化された『聖の青春』に続いて、この映画も成功してほしい。 そして将棋界がますます盛り上がればよいと思う。