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寝ても覚めても

以前ブログで書いた『ハッピーアワー』『親密さ』などの濱口竜介監督の新作、『寝ても覚めても』を観に行ってきた。

これまで見た作品では、プロよりは素人に近い俳優を使って、自分で書いた脚本のテキストを生かすような作り方をしていた印象があるので、今回は東出昌大のような有名な俳優を使って、原作のある作品の映画化ということで、メジャーに打って出る、勝負の一作かも知れないと、なるべく予備知識なしに期待して観に行った。

 

結論から言うと、かなり期待はずれであった。 非常に感想の書きにくい映画で、「傑作」という評から「どうしようもない」という全否定の評まで10種類くらいの書き方が可能で、そのどれもが間違っているという種類の映画だと思った。

苦心惨憺の末思いついた感想は、「良くも悪くも東出昌大のソロ作品」という一言。

「ハッピーアワー」や「親密さ」でのような独特の作家性が感じられなかったのは、原作が存在していることと関係があるのはひとまず間違いではないだろう(ちなみに原作は未読)。

以前の作品ばかり引き合いに出して申し訳ないが、最も残念だったのは、濱口監督が過去作品で実現してきた「エモーションの記録」が今作に見られなかったという点だ(しいて言えば途中主人公の友人たちが自宅で演劇を巡って本音をぶつけ合う場面に若干感じられたくらいだろうか(本論とは関係ないが、この友人役を『あまちゃん』にも出演していた山下リオが好演していたのが嬉しかった))。

濱口作品ではストーリー自体はそれほど重要な要素ではないと思っている。それでも、否それゆえに、今作のストーリーはアクが強すぎたきらいがある。

ヒロインである朝子(唐田えりかという女優は初めて見た。10代の桐谷美鈴と遠野なぎこを足して2で割ったような印象)の行動には微塵も感情移入できなかったし、当然と言えば当然すぎる亮平(東出)の反応についても、なぜそれがああいう結末になるのかがまったく理解できない。 中には朝子に感情移入できる人もいて、断固としてそれを否定する人がいて、映画を観終わった後で思う存分意見をぶつけ合う・・・という類の作品でもない。 観る者になんとも中途半端で不安定な感情を抱かせて放り投げた感じが否めない。

ネタバれを含むさらに詳細な感想は別に書くとして、ここで忘れずに記しておきたいのは、 あの東出昌大がここまで来るとは正直思わなかったなあ、という感慨であった。

「良くも悪くも東出昌大の映画」と先に書いたが、とにかくこの映画は、 『川の底からこんにちは』という映画が満島ひかりの映画であるのと同じくらい、東出昌大の映画なのは間違いない。 海外の映画賞にも出品しているとのことだが、もしこの作品が海外で高く評価されたら、上記の感想が変わるのかと言えば、変わらない気がする。

もう少し突っ込んだ感想は改めて書くとして、とりあえず観終わった直後の感想はこのへんで。