INSTANT KARMA

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妄想電波(10)

はい、こんばんは。いつものように全国ゼロ局ネットでお送りします、新年初の妄想電波になります。

昨年出版された『プリンス録音術』『プリンスと日本』というプリンス関係の本を読んでいましたら、急にテンションが上がってきまして、個人的な思いを吐き出したくなりました。

プリンスの曲は、必要な時と全然必要としない時があって、必要でないときはむしろ聞きたくないくらいなんですが、必要な時はプリンスしか聞けなくなるという特質があります。

というわけで今日は2016年に亡くなったミュージシャン、プリンス・ロジャー・ネルソン氏の曲だけでお送りします。

僕とプリンスの出会いについては、プリンスが亡くなった時のブログにも書いてあるのですが、中学生のときにテレビの音楽番組で初めて見て、なんか変な人が盛り上がってるなあ、と何とはなしに印象に残っていました。

それで、この曲のイントロをラジオで聴いたときにハートを撃ち抜かれました。

今日の1曲目:ビートに抱かれて/プリンス&ザ・レボリューション

家にはレコードプレーヤがなく、ラジカセしかなかったので、僕が人生で初めて買った(レコードではなく)音源は、『パープル・レイン』のカセットテープでした。

次のアラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ』『パレード』まではカセットテープで買いました。

当時はロッキン・オンの渋谷陽一氏がほとんど宗教のようにプリンスを崇め奉っていて、『パレード』のライナーノーツでは、小説家・山川健一氏との対談形式で、こんな風に語っていたりします。

今のポップ・ミュージックっていうのは、方法論の使い回しなんだよね。そんな中でプリンスは新たな方法論の構築というか、提示というか。一応ポップ・ミュージックでありながら、確実なスタイルのイノヴェイションを自分に義務付けていて、しかもそれが出来てしまっている。

 

だからスタイルを新しくするって、ミュージシャンにとってメチャクチャなことだという気がするんだよね。小説家で言えば、一作ごと文体も何もかも全部変えていかなくちゃいけないわけじゃない。目先を変えて、今日はレゲエでした、明日はソウルでした、続いてはロックンロールですというスタイルのマイナー・チェンジというのは多くのアーティストがやっているわけだけど、違うんだよ。イノヴェイションなわけよ。過去にない音楽スタイルを明らかにラディカルな形で造り上げていくというか、とにかく音楽シーン全体をもう一歩前に進めていく。ほとんど一人の力でそういうことに大胆に挑戦して、しかもやれてしまっているというのは、ちょっと異常なものを感じるね。

 

普通は、時代状況というか、いくつかの動きの中で新しいスタイルというのは作り上げられていくわけじゃない。そういうのをいきなり一人で背負って、グワーンとマジに行っちゃってる。今回のアルバムは、才能のブルドーザーというかさ、今、プリンスはそういう状態にあるなという気がするな。

 

ミュージシャンの旬の時というか、何か憑りついたような。このまま20年、30年行ったらほとんど化物だけど。

こういう文句を真に受けて、僕もプリンスを崇め奉っていました。というか、この時期は世界中のミュージシャンが何か異様な物を見るような目でプリンスを畏敬していた気がします。

では、渋谷陽一氏が「他のくだらないものと一緒に並べるのは犯罪的」とまで言ったアルバム『パレード』から一曲聴きましょう。

今日の2曲目:マウンテンズ:プリンス&ザ・レボリューション

初めて買ったCDが『サイン・オブ・ザ・タイムス』です。それをカセットテープにダビングして、私の祖父が亡くなった夜、祖父への家に向かう電車の中でひたすら聴いていたのをやけにリアルに覚えています。

僕にとってのプリンス体験の頂点は、当時BSテレビで放送されたプリンスの「ラブセクシー・ツアー」のビデオと、当時公開された「サイン・オブ・ザ・タイムス」の映画上映です。この二つには生涯最大級の感動を受けました。

その頃の僕に至福の境地を与えてくれた曲です。

今日の3曲目:アドア/プリンス

今日の冒頭で言った本に書いてある、当時のスタジオで一緒に働いた人たちの証言を読むと、この頃のプリンスは文字通り憑りつかれたように曲を作っていたようです。

24時間ぶっ続けでレコーディングなんてザラで、平均的な一日は、朝の10時過ぎにスタジオに来て、午後7時くらいまでバンドとリハーサルをして、家に帰って夕食を取るとスタジオに戻り、朝の3時か4時までレコーディングしたら、家に帰ってその日のリハーサルを収めたビデオをチェックして、それから翌朝、またスタジオにやってきて、6,7時間リハーサルすると、スタジオに入って6,7時間レコーディングして、家に戻り、ビデオを4,5時間見て、という日々を繰り返していたといいます。

アルバム発売後は週に4日ツアーでライブをこなしながら、週末の3日にスタジオで新曲を録りためていたといいます。こんな生活に付き合わされるエンジニアたちもたまったものじゃありませんが、彼らもプリンスの驚異的な才能に惚れ込んで、精根尽き果てるまで付き合っては辞めていくということの繰り返しだったようです。

彼はスタジオで全部の楽器を一人で演奏していました。『ラブセクシー』から、彼のドラムがどんな感じか分かるのを1曲。

今日の4曲目:ダンス・オン/プリンス

初めてプリンスとの距離を感じたのは、次のバットマンのサントラが出た時ですね。

何かそれまでのイノヴェイションから一歩引いて、自分のスタイルの模倣というか、まったく違うものを作ろうという意気込みを感じなかったというか。

やっつけ仕事じゃないですけど、映画のサントラとして発注された仕事だったということも関係していたのかもしれません。個人的には、大学に入って独り暮らしを始めて、生活環境や音楽環境が大きく変わったので、プリンス以外の、アヴァンギャルドな音楽に目が向いていたというのもあると思います。

実際、次の『グラフィティ・ブリッジ』あたりから90年代のプリンスの迷走が始まります。もちろん作品のクオリティは高くて、大好きな曲もたくさんあるのですが、『ラブセクシー』までの、一人ブルドーザーのようなダイナモがいったん途絶えた感じでしょうか。

『グラフィティ・ブリッジ』から大好きな曲を。

今日の5曲目:ジョイ・イン・レペティション/プリンス

90年代はプリンスにとって、レコード会社との対立や、私生活上の不幸や、時代がヒップホップになって音楽的にもズレを生じてきたり、かなり逆風の時代だったように思えます。

彼がこだわったインターネットによる音源配信スタイルは、今では完全に定着しましたが、当時はそこまでのネット普及や通信環境がなく、時代を先取りしすぎていたが故の不幸もありました。

しかし、21世紀に入って、再びプリンスの活動が時代にマッチして、充実した作品、充実したライブ活動、充実したファンとの交流が活発化します。本人は、「カムバック? 僕はどこにも行ってないし、演奏もレコーディングもやめたことはない。僕は変わっていない。ただ大好きでやっていることをやり続けているだけだ」と苦笑交じりに言っています。

21世紀に入って出た傑作アルバム、『レインボウ・チルドレン』から一曲。

今日の6曲目:エバーラスティングング・ナウ/プリンス

このときのツアーで2002年に来日したのが最後の日本公演になりました。もっとも僕は実際のライブに行ったことは一度もありません。ビデオと映画で十分でした。

2006年に発表された『3121』というアルバムから、大好きな曲を聴いていただきましょう。

優しくて芳醇な、まさに円熟したプリンスが伝わってきます。

今日の7曲目:ビューティフル、ラヴド・アンド・ブレスド/プリンス

改めて、80年代の「一人ブルドーザー」の時代のプリンスは何だったんだろう、と考えてみると、彼は、他人が従うことのできるような一つのあるいは複数の形式、スタイルを創造したというよりは、彼個人の深層から沸々と湧き出てくる極めて個人的なインスピレーションを形にし続けたのではないか、という気がします。

だから、プリンスはあの時代に出現した唯一無二の個性の表現者であって、ロバート・ジョンソンにとってのブルースやボブ・マーリーにとってのレゲエのような特定の音楽ジャンルの代表者ではありえなかった。

彼の最後の作品になった『アート・オフィシャル・エイジ』『ヒット・エンド・ラン フェーズ・ワン』『ヒット・エンド・ラン フェーズ・ツー』はいずれも唯一無二のプリンス・ミュージックの円熟性を示す内容になっています。この方向性で、あと10年は作品を生み出すことも余裕でできたでしょう。しかし、運命は彼にそのような生き方を許しませんでした。

もう一人の天才、マイケル・ジャクソンの死に際してスティービー・ワンダーが言った言葉が、プリンスにも当てはまるのかもしれません。つまり、我々よりも、地上の彼にインスピレーションを授けてきた天上の神々の方が、彼を必要としたのだと。

では最後の曲になります。プリンスの曲だけを24時間流し続けることも可能ですが、この番組はもうそろそろ終わりにすべきでしょう。

僕にとって、そして今この世を生きる無数の人々にとって、生涯唯一無二のアーティスト、プリンス。彼がこの曲について語った言葉を引用して、お別れします。絶望するな。ではまた。

「この曲の中で、僕が何も語っちゃいないという人々がいる。それから、他にも多くの人がこの曲について誤解しているけれど、僕は先見の明をもった天才になろうとしているわけじゃないんだ。ペイズリー・パークは、みんなの心の中にある。僕が鍵を持っているわけじゃない。僕が言おうとしたのは、自分の内側を見つめて、完璧さを見つけるってことだ。完璧さは誰の中にも存在する。誰も完璧じゃないけれど、完璧になれる可能性はある。一生完璧にはなれないかもしれないけれど、何もしないようりも、努力したほうがいい……長年、僕のことを応援してくれている人のために、心の手紙のようなものを書いたんだ。そして彼らは、僕が感じていたことを感じ取ったって、手紙を書いてくれた。」(プリンス)

今日の8曲目:ペイズリー・パーク/プリンス&ザ・レボリューション