INSTANT KARMA

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私の東京物語(2)

第2話

父親は服飾業をやっていました。小学生の頃、父が恵比寿の店舗に異動になり父の恵比寿通いが始まりました。その時の私は、お化けよりも何よりも東京が嫌いだったので(テレビドラマ「とんぼ」の影響で)、父の勤め先の恵比寿とやらが東京と知った時は愕然とし、東京に魂を売りやがって!と父のことも嫌いになりました。

いいかげん「とんぼ」のトラウマを克服しないとお父さんがかわいそうだよ。 異動なんだから仕方ないでしょ。魂売ったわけじゃないと思うし。

そんなある日、仕事から帰った父が、なにやら手にしゃれた袋を持っていました。「お土産買ってきたぞ」。渡された袋から取り出された箱を開けてみると、中には小さいケーキのようなものがたくさん入っていました。それはプティフールというお店のお菓子で、タルト、モンブラン、シュークリームなどさまざまな種類のケーキが一口サイズになって色とりどりに美しく並べられていました。小箱の中に広がっているキラキラとした世界、あまりの美しさに食べることも忘れ何時間も眺めていました。そのころの私のおやつといったら母が作った蒸しパンだったり団子に砂糖醤油をつけて食べる、といった地味の極みのようなものだったのです。ましてこんなに綺麗な物を見るのが初めてだったので、汚いと思っていた東京のお土産が綺麗、どういうこと?それはもう私の脳内でパニックになりそうな混乱をきたしました。 子供は単純です。 その日から、ちょっと東京っていいところかも、という気持ちが芽生え始めました。

パティシエが丁寧に仕上げた上品な半生タイプのケーキ「プティフール」は東京會舘を代表するスイーツのひとつ。 チョコレートで飾ったパイナップル入りパウンドケーキとプラリネクリームをサンドしたソフトクッキーの詰め合わせです。 季節の素材や味わいを取り入れた季節限定のプティフールも人気です。(店舗HPより)

かくして、プティフールのお陰で「とんぼ」により生じた東京への歪んだ偏見と父親への理不尽な憎悪を克服する契機を掴んだ少女・鳥居みゆきであった。この少女がやがて日本中を震撼させるお笑い芸人になることは、まだ誰も知らない。次号も乞うご期待。