高橋揆一郎『伸予』という小説を読んだ。
第79回芥川賞受賞作品で、小谷野敦が名作と呼び最高レベルの評価を与えていることから、図書館で借りて読んでみた。
確かに文体がきびきびしていて読み易く、引きこまれる。内容的にも名作短編と呼ぶに相応しい。
49歳の元女教師(主人公・伸予)が、30年前に恋した元教え子と再会する。その間、伸予は結婚し、二人の子供を持ち、成人している。夫は3年前に仕事帰りに脳出血で倒れ、そのまま亡くなっている。
全編が伸予のモノローグ(心の声)のようなものだが、主人公の心の動きが手に取るように伝わってくる。
作者はこれを50歳で書いた。芥川賞にしては遅く、内容も中年向けだが、それだけのものがあったということだろう。
ある種、小説のお手本のような作品だ。
小谷野は主人公を竹下景子のイメージで読んだらしいが、僕は最後まで明確なイメージが持てなかった。そこが個人的にはマイナスポイント(もちろん作品のせいではない)。