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Strange Job

荻窪の古本屋で大江健三郎の初期短編集の文庫を買って、『奇妙な仕事』、『動物倉庫』、『鳩』、『見る前に跳べ』、『鳥』まで読んだ。

『奇妙な仕事』について、小谷野敦は、「奇蹟の処女作であり、人間存在のざらりとした感触を、日本文学にかつてない表現で表していた」と書いている。小谷野は大江を高く評価しており、「大江健三郎は、今世紀に入って、近代日本最大の作家になった。前世紀までだと、せいぜいが戦後最大の作家だったが、伊丹十三を描いた『取り替え子』からあと、その達成は谷崎や川端、漱石を超えるにいたった」と書いている。

確かに『奇妙な仕事』インパクトのある作品である。だがその衝撃の半分は作品が取り上げる文字通り「奇妙な仕事」の中身から来るものだ。とはいえ文体そのものが今読んでも新鮮な感じがするのはやはり才能だろう。これが東京大学新聞に載って平野謙などの目に留まり、作家としての道が始まった。

『動物倉庫』は小説ではなく演劇のシナリオで、よくできてはいるとは思うがどうということはない。『鳩』は少年院を舞台にした陰惨な話である。『見る前に跳べ』も娼婦のヒモである大学生(東大仏文科)を主人公にした陰鬱な話である。大江の初期作品について共通して言えることだと思うが、これらの作品は当時の時代背景を抜きにしては価値が十分に分からないだろう。

『見る前に跳べ』などは、そのインパクトのあるタイトルが有名だが、今読むと冗長で平凡な小説であり、これなら確かに同年代で書いた綿矢りさの方が小説家としては遥かに才能があると思う(大江は綿矢の『かわいそうだね?』という小説に「大江健三郎賞」を与えて対談を行い、綿矢の才能を褒めちぎっている)。『鳩』も少年の自己処罰に傾く心の動きに十分な納得をもって共感できなかった。そもそも14歳の少年の主観的な語りと言うスタイルに無理がある気がする。

『鳥』は、星新一ショートショート(というには長すぎるが)のような味があって面白いと思った。