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われらの時代よふたたび

大江健三郎(86)の自筆原稿や校正ゲラなどの資料約50点が、母校の東京大学に寄託されたと、東大が12日発表した。大江の原稿がまとまって公的機関に寄託されるのは初めてという。東大は今後、これらの資料を保管・管理し、国内外の研究者に公開する研究拠点「大江健三郎文庫」(仮称)を文学部内に設立する予定。

寄託するのは、東大在学中に執筆した初期の短編「死者の奢り」(57年)や、中期の代表作「同時代ゲーム」(79年)、後期の「晩年様式集(イン・レイト・スタイル)」(2013年)など。自筆原稿は計1万枚を超え、同一作家の自筆原稿コレクションとしては屈指の規模になるという。

資料はこれまで大江の自宅のほか、出版社の講談社文芸春秋に所蔵されていた。「大江健三郎全小説」(講談社)の完結を受け、関係者と協議し合意に至った。東大が作家の自筆原稿を中心としたコレクションを受け入れるのも初めてとなる。東大によると、研究拠点の運営は日本文学やフランス文学の研究室が中心になる。担当の阿部賢一准教授は「大江さんは外国文学から刺激を受け、作品に反映させている。日本文学の専門家と外国文学の研究者とが共同研究を進めることによって、大江文学を世界文学として捉え直すよい機会になる」と話した。

今ちょうど大江の小説を読んでいるところだったので、このニュースを知るのは一つのシンクロニシティに思える。

報道では大江氏の「代理のご家族」との間で寄託契約が結ばれたとなっており、本人はすでに十分な意思能力を有していないのではないか、との一抹の疑念がある。以前は、自分の文学館のようなものは絶対に作らないと言っていたようだが。

現時点で最新の長編小説である『晩年様式集』でも認知能力の衰えを認める文章があった。かねてからのアルコール依存の傾向もあり、現状は予断を許さない。

大江文学の評価については、作家の政治的立場への評価とも結びついて、賛否両論あるようだが、自分は積極的に評価したいと思う。個を掘り下げると同時に真正面から時代と向き合った偉大な作家であった。今はもうそんな作家はいない。最後の大小説家だったと思う。

大江の文学者としての天才には、その卓越した言語感覚が含まれる。

コピーライターの才能を時代に大幅に先取りしていた大江の言語感覚は、小説のタイトルを見ただけで読みたくなるような、センスに溢れている。

『死者の奢り』

『芽むしり仔撃ち』

万延元年のフットボール

ピンチランナー調書』

同時代ゲーム

『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』

『みずから我が涙をぬぐいたまう日』

『見るまえに跳べ』

『いかに木を殺すか』

『新しい人よ眼ざめよ』

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まだご健在であり、願わくはもう一度時代を撃つような「劇的なひとこと(パンチライン)」がご本人の口から発せられるのではないかと期待している。