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鳥居みゆきさんインタビュー

2月23日付で文春オンラインに鳥居みゆきの超ロングインタビューが載っていたのに今まで知らなかったじゃないスか。 すごくよいインタビューなので、改めてツッコミ記事を書きたい。 個人的な備忘録として無断全文転載しておく。権利者から申立てがあれば速やかに削除します。

 

「笑いって関係性だ」と気づき“話し方講座”へ…異端芸人・鳥居みゆきがお笑いに目覚めた原点 鳥居みゆきさんインタビュー #1

西澤 千央

2021/02/23

今、女性芸人の世界が揺れている。女性芸人といえば、当たり前のように「ブス」「デブ」「非モテ」をいじられ、そこで強烈なインパクトを残すことが成功への足がかりとされてきた。  

しかし、持って生まれた容姿や未婚か既婚かどうかの社会属性などを「笑う」ことに対して、今世間は「NO」という意思表示をし始めている。「個人としての感覚」と「テレビが求めるもの」、そして「社会の流れ」。

三つの評価軸の中に揉まれながら、女性芸人たちは新たな「面白さ」を探し始めている。 登場は強烈だった。白いパジャマにくまのぬいぐるみ、見開いた目で唱えるネタはポップな狂気に満ち溢れ、たちまちテレビバラエティに引っ張りだことなった鳥居みゆき。  

しかしどの番組も彼女の芸人としての「取扱説明書」を見つけることはできず、いつしか活動のベクトルは単独ライブや演劇へと向かう。鳥居みゆきは何を求め芸人の世界に足を踏み入れたのか。今、鳥居みゆきの“居場所”とは。

 

――あ、マスク外していただいて大丈夫です。

鳥居 マスクしなきゃいけないのはわかってるけど、嫌いなんですよね。

 

――インタビューはそうですね、少しやりにくい。

鳥居 なんかすごいイライラしませんか。でも、私フルマラソンの練習してる時はマスクしてました。

 

――「東北・みやぎ復興マラソン2017」の時ですか?

鳥居 はい。真剣に走ってる姿とか、見られたくないじゃないですか。努力とかって見られたくない。私、努力見せるの嫌い。 ネットニュースだけをみて知った気になる人多いのでね

 

――先日ナイツさんのラジオに鳥居さんがゲストで出ていた時、ジェットコースターみたいにトークが展開されて、すごくおもしろかったです。特に「毎日生まれ変わる」っていう話。毎日生まれ変わってるから、毎日食べ物も人も新鮮に感じるし、毎日生まれ変わってるから、「新○○」みたいな“大元があるもの”に戸惑うと。なるほどな〜と。

鳥居 ありがとうございます。木場がわからないのに新木場に行けないってやつですね。私ジェネリック医薬品も、最初に大元のちゃんとしたものをもらって確かめてからジェネリックもらう。

 

――順番を間違えちゃいけないと。

鳥居 いけないんです。元々を知らないと何もできないですからね。

 

――そういうのショートカットしようと思えばいくらでもできてしまう。すぐ知った気になれる世の中ですので。

鳥居 そう。ネットニュースだけをみて知った気になる人多いのでね。ウィキペディアだけを見て、とか。なのでそういうのは私はあまりしないです。文献とか本をちゃんと読んで。

 

――研究するのが好きですか?

鳥居 すごい好きです。もうちょっと頑張ってれば、私の方がSTAP細胞見つけられた可能性ある。

 

――(笑)。

鳥居 考えるのが好きなんですよ。自分の考えていることに飲み込まれるのが好きなんです。

 

――それはどういう感じですか?

鳥居 自分が自分を追い越していく感じですね。自分がしゃべりたいことがあるとして、でもまた違う「これもしゃべりたい」が出てきて。もうどんどんどんどん追い越していっちゃうので、「待って待って」といってたどり着くという感じです。たどり着かないで終わることもあるんですけど。そうすると、変なやつだなで終わっちゃう(笑)。

 

――聞かれたことと全然違うことを言ってるみたいな。

鳥居 そうそう。自分の中のゴールはあるんだけど、ゴールまでちゃんとしゃべらせてくれなかったり、自分がまとまらないとそうなっちゃう。私自身の向こう側にいくんですよ。

 

――最近あまりテレビに出ないのも、そういう部分が満たされないからでしょうか。

鳥居 うーん……でもね、結局はすごく人に合わせてみんな生きてるなっていうことです。私もそうだし。でもあまのじゃくだから「あっこういう答えを期待されてるな」と思ったら言いたくないんですよね、ほんとはね。

 

「笑いって関係性なんだ」と気づき、「話し方講座」へ

 

――芸人になりたいと思ったきっかけが「友だちを作ろうと思った」と過去のインタビューでお話しされていますよね。小さい頃友だちからお菓子をもらって、他の子が「マズッ」ってやったらウケたのに、自分がやってもウケなかった、「笑いって関係性なんだ」と気づいたと……。

鳥居 そうそうそう。それなんで知ってるの? 私のこと(笑)。メロンのお饅頭みたいなねーこれが正直おいしくなくて、周りが「なにこれー」って言ったら「そんなこと言わないでよー」みたいになってたから、私も「まずいね」って言ったの。そしたらほんとシーンとして。

 

――切ない……。

鳥居 でも「受け手のミスは言い手のミス」じゃないですか。これ石田純一さんが昔言ってた気がして。「不倫は文化だ」の時代に。

 

――(笑)

鳥居 あぁ私がいけないんだと思って、それで私は自分を変えようと思ったんですね。どんなに面白いことをしゃべっても、受け手によっては伝わらないこともあるんだと。それまで孤独が好きで嫌な人って思われていたので、だからそれを変えたいなと。もっと明るい人間でいよう、それでこんな色んな事を考えてるんだよっていうのを、出したい、表現したいって思って。

 

――芸人の道を選んだ。

鳥居 いや、まず「話し方講座」に行きました。赤羽だったか、大宮だったか、いつも電車から見える看板のところ。それに行ったら、なぜかファンデーションの営業トークを学ばされて。それでファンデーションを売る力が今すごいあるんですよ。

 

――ファンデーションを売る力(笑)。

鳥居 求めているのそれじゃなかったのに。でももういいやと思って、ほんとは人としゃべりたかったんですけど、もうひとりでいい、孤独を孤高と言おうと思いました。

 

――「孤独を孤高という」、いいですね。

鳥居 自分の中でそう言い換えて自分をなだめてたんですよね。

 

――敢えてこうしてるんだと。

鳥居 そう。恥ずかしいから。でもそんなみじめなところもさらけ出さないとほんとはよくなかったかなと思う、今となっては。全てはプライドですよ。プライドが全てをダメにしている、人間って。

 

――かっこつけたりとか。

鳥居 そうです。で、そのプライドを一回捨てようと思ったのが、芸人になって全然ネタがオーディションに受からなかった時期。プライドを一回捨てようって思った時期ですね。

 

――それが山田ルイ53世さんから言われた「もっとポップなネタを作れ」で、生まれたのが「ヒットエンドラン」。

鳥居 よく知ってますね! もう話さなくていいじゃん!

 

鳥居 でも芸人というか、演出家になりたかったんです。

 

――なぜ演出家に?

鳥居 結局自分が思い通りに動けないんだったら、神のように人を操ればいいんだと思いました。なので自分で脚本を書いて演出家になればいいと。

 

――神のように(笑)。

鳥居 普段の生活も、自分が思ってるようにできない、すごい歯がゆいことばかりなんです。だったら周りが変わればよくね?って。自分が全部に動きをつければいいんだと思ったんですよ。  それで劇団に入って「演出家になりたいです」って言ったら、「演出家になりたいんだったら、とりあえず演技ができなきゃだめだよ」って言われたんですよ。ただその劇団のコメディーが全然面白くなくて。なんだこれ、と思って。こんな面白くないものを面白いって表現できないって思ったんです。なのでコメディーを学ぼうと。

 

――あぁなるほど。

鳥居 そう。それで今に至る(笑)。まだ学んでる途中。

 

――じゃあ今はまだ学び途中で、その期間が終われば演出家になる。

鳥居 やっと夢を叶えられると思います。でもそうなる前に、今、演出の仕事もやってるので意味が分からない。

 

――たしかに。

鳥居 今までのはカウントなし。ノーカウント。だからそれでいうとまだ何も仕事始めてないみたいなもんです。

 

――コメディーを学ぼうと思ってサンミュージックに入ったのはなぜですか。たしかにサンミュージックと鳥居さんの相性は良さそうな感じするんですけど。

居 なんで? あ、文春だから? 文春だからサンミュージック

 

――それは関係ないんですけど(笑)。サンミュージックは自由なイメージある。

鳥居 自由です。サンミュージックは良くも悪くも自由ですね。

 

――良いところはどういうところですか。

鳥居 いいところは自分の個性を消そうとしないで、そこを伸ばそうとしてくれるところですね。

 

――悪いところは?

鳥居 ダメ出ししてくれないところ。サンミュージックの芸人って、なんかわけわからないジャンルばかりじゃないですか。私一回もダメ出しされたことなくて、それじゃ伸びないよと思う。

 あと交通費が出ない。この仕事とこの仕事の間、絶対タクシーで行かなきゃいけないという時も交通費が出ない。あと最近Wi−Fiがついたけど3階とか1階になるともう届かない。2階しか届かない。稽古場に防音がないから、夜練習できない(笑)。

 でもね、ほんとあったかいですよ。ほんとファミリー感があって。でも家族だったら交通費ちょっと出してよとか思う(笑)。

 

――同じ事務所同士でエピソードトークが盛り上がりそうですね(笑)。

鳥居 うん。ただね、横のつながりそんなないですよ、サンミュージック。吉本さんだったら、こう振ったら誰かがこう答えて……みたいなのがあるけど、サンミュージックはみんながみんな「ハイ、ハイ、ハイ、ハイ」って前に出てきて、それぞれをつぶそうとかかってくる。

 

――ひな壇向きじゃない。

鳥居 全然です全然。ひな壇の“一枠向き”なんですよ。でも声デカいから後ろに座らされる。ピン芸人が多いから、目立ちたいんです。コンビでもピン立ちしてる人が多い。

 

――先輩後輩とか、横の繋がりみたいなものがない。

鳥居 そういうの私も嫌ですし。前に(カンニング)竹山さんから「お前今どこにいる。飯行くぞ」ってLINEきたんですけど「今ちょっと喫茶店でボーッとしてて忙しいです」って返したら「りょうか〜い」ってきました。いいんだこれで、と思った(笑)。

 

――すごくいい事務所ですね。

鳥居 裏を返せば、人に興味がない人たちが集まっているんですよ。自分にしか興味がないナルシストばっかり。エゴのかたまりしかない(笑)。ああごめんなさいね、私ばっかりしゃべっちゃってごめんなさい。

 

――いえ、ありがたいことです。

鳥居 だめです。これはほんと反省しなきゃいけない。ずっと変わらないんですよ、昔からこういうところが。「人の話はちゃんと耳を傾けなさい」ってね、この間親に言われたの。

 

――他の世界だったら変わった人扱いされてしまうかもしれないけど、ここだと変わってることがよしとされるのは、すごくいい。

鳥居 居場所を見つけたのかもしれない。居場所といってもほんとの居場所とは思ってないんですけど。バスで言ったら補助席みたいなもんですけど。

 

――真ん中の、折りたたみの。

鳥居 なんかあったらすぐどっか行けるような。でもとりあえずは今一番落ち着くのはここだから、居場所は居場所ですね。でも私、本当は運転席に座りたいんですよね。

 

――演出家ですもんね。

鳥居 そう。最終的に運転席に行くぞって思いながら、とりあえず深く腰掛けず補助席にいるという感じですね。運転手に何かあったら私がハンドルをいつでも持てるように準備を。

 

「容姿なんて、魂がとりあえず入ってる箱です」鳥居みゆきが語る“女芸人”というレッテルの理不尽 鳥居みゆきさんインタビュー #2

 

自分が思っていることを相手に伝えるにはどうすればいいのか……話し方講座、劇団を経て、その答えを「芸人」という職業に求めた鳥居みゆき。しかし彼女がどんなに自由な表現を追い続けても「女芸人」というカテゴライズが鳥居を縛った。

「時代錯誤もいいとこですよ」この特集内で、ここまで怒りをストレートに語った人もいない。鳥居みゆきは「女芸人」の何に苛立つのか。

 

労働って、人を狂わせない唯一のものですからね

 

――鳥居さんはすごくサービス精神が旺盛なんじゃないでしょうか。

鳥居 そんなことないですよ。

 

――相手が求めていることの逆をやりたくなっちゃうって、相手の求めていることがわかるということだから、人の感情に追いかけられてしまいますよね。

鳥居 そうなんだろうな。

 

――テレビは良くも悪くも「求められたことをする」場所だと思うのですが、今は少しそこから自由になれたのでしょうか。

鳥居 最近YouTube始めたんですけど、今のフラットな私を、フラットだけど見る人が見たらちょっと変って思うかもしれない、そういう感じでやるのがあってもいいかなと思って。

 結局単独ライブがコロナの影響で2回延期になって、寂しくなっちゃったんですよ。「YouTubeやるのはすごく大変だよ」と言われたから、大変ならやろうって思ったのもある。大変なの好きなんですよ。

 

――追い込まれるのが好きなんですか?

鳥居 細かい作業が好きなんです。内職向き。でも昔ハンダづけの内職で何になるのかわからない基盤にハンダづけして1000個作ったら、1000個のうち10個もちゃんとしたのできなかったから、下手は下手なんだな。

 

――決められたことをやるのが嫌なのか。

鳥居 嫌なんだと思います。肉に棒を刺すバイトをしてた時は、みんな1人1つ肉を刺して次に流していくんですけど。私自分のところで2個刺して、次の人の手間を減らしてあげようと思ったんです。でもその人、やりがいがなくなっちゃったのかすぐやめて。人材が足りなくなって、結局自分が大変になりました。

 

――よかれと思ってやったことが、やりがいを奪ってしまった……。

鳥居 たぶん「私何してるんだろう」って、自問自答する時間ができてしまったんだと思う。労働って大事だなと思いますよ、ほんとに。労働って人を狂わせない唯一のものですからね、やっぱりね。

 

――人間暇だと、ちょっとおかしくなります。余計なことを考える。

鳥居 だから私もうめいっぱい何かしていたいんです。常に何かしてたい。 人間大好きだけど、接し方がわからないんです

 

――単独ライブはコロナで中止になってしまいましたが、配信という方法は考えなかったですか。

鳥居 はい。だって配信だと、お客さんの声が聞こえないですよね。聞こえなかったら間の作り方がわからない。単独はお客さんの間に合わせてテンポを毎日変えているので。このテンポで言ったら昨日はこんな感じの反応だったからちょっとずらして言おうとか。

 そうやってお客さんと一緒に作っていく作業ができないと、私ひとりだけ、コンビの片割れだけ『R-1』出ちゃったみたいな不安な感じです。単独ライブはお客さんの声と間と空気があって成立するから。私、グッズやそれを売ってるロビーも含めて単独だとしてたいんですよ。

 

――鳥居さん、一見人間嫌いのように見えて、実は人との交流をすごく大切にされているんですね。

鳥居 私人間大好きなんですよ。人間大好きだけど、接し方がわからないんです。わからないというか、合わせるのがめんどくさくなっちゃう時があって。このコロナ禍は「人と会えない」という点では、ラッキーですね。

 

――飲み会も堂々と「今はちょっとやめとこう」って言える理由ができて、楽なことはありますよね。角が立たない。

鳥居 そう。家でずーっと膝をかかえて1日過ごしてると罪悪感が生まれるんですけど、この時期それ生まれないじゃないですか。

 

――逆にいいことをしたと。

鳥居 そうなんです。すごく正当化してくれる。私をみじめにさせない、今の期間をフル活用していこうみたいな感じ(笑)。でも今こうして人と会えたのがすごくうれしいなとも思う。やっぱり人を欲してるんですね。

 

――私もです。リモート取材も多いので。

鳥居 あれ嫌だね〜。なんだかよくわからないけど銀河の背景にしてるやつとかいるから。

 

――(笑)。

鳥居 銀河どういうこと?って思うとすごく気になっちゃう。すごいツッコミどころ多いじゃないですか。  あれもこだわりなんでしょうね。エゴですよ、こだわりの押し付けですよ。人がどう思うかまで考えが及んでない、鈍感タイプ。車とか駐車場に入れる時、絶対ストップの石のところまでいくタイプですね。掃除機かける時も、壁までガンっていくタイプ。

 

――鈍感な人は嫌ですか。

鳥居 嫌ですね。街とかでさ「じゃあねー」とか言いながら友だちと別れたその笑顔を引きずったままこっち向いてくる人いるじゃないですか。私そういう時「は?」って言ってやるんです。すっごい腹立つあれ。なに笑いの要因引きずってるんだよ、もう切り替えていけって。あっそうだ、女芸人に関して何もしゃべってないんだけど。

 

――以前のインタビューで「女芸人ってくくられるのが嫌だ」とおっしゃってましたよね。

鳥居 あぁ嫌いなんですよ、私。時代錯誤もいいとこですよ。多様化の時代にまだ女芸人でくくるかと思いますよね。紅白もそうじゃないですか。まだ紅白で分けてるの、まだ対決してんのっていう。そこの勝敗別にそこまで気になってませんけど。

 

――たしかに毎年どっちが勝ったかわからない。

鳥居 勝った方がなんかもらえてるかすらあやふやじゃないですか。看護婦さんも看護師さんになる時代に、女芸人はまだ女芸人かい、みたいな。マイノリティーだって言いたいんでしょうね。

 

芸事は男の職業だと思ってる人がいまだにいますよ、先輩にも

 

――そうか。お前たちはマイノリティーなんだぞって言いたい。

鳥居 男の芸人の中にもそういう、頭の固いやつがまだいるんですけど。そういう人ほんとに腹立ちますよね。芸事は男の職業だと思ってる人がいまだにいますよ、先輩にも。

 

――鳥居さんも何か言われたりしましたか。

鳥居 私ね、なんにも言われない。怒られたことゼロなんですよ。鈍感だからかな。女芸人とも言われたことないな、なんでだろう。 あとネタのジャンルが似通ってるとライバル扱いされるじゃないですか。私、なんでかわからないけど「鳥居さんは泰葉さんと仲いいの?」とか「ライバル?」とか言われたことがあって。なんで泰葉さん? 泰葉さん、芸人なのでしょうか。

 

――泰葉さん、生き方は芸人さんぽいけど……。

鳥居 「女芸人は弱者」みたいに思われているのか知らないけど、「恥ずかしい感じになっちゃうから笑ってあげなきゃ」が働いていると思うんですよ。女芸人がネタやる時ね。それって私はいらねぇなと思って。  面白かったら笑って、面白くなかったら笑わなきゃいいだけなのに。忖度というか、「女芸人」という見方がよろしくないなと思う。

 

――テレビが求めてくる女芸人像みたいなのも、ありますよね。やたら恋愛トークさせたがったり。

鳥居 ある、ある、ある。モテないとかね。結局は、かわいい人や女優がやってる変顔と一緒で歪なものを見せたいのかな。ちょっと変ですよね、というか。

 昔、松竹さんのライブに出させていただいた時にTKOさんがいて。ライブで私がボケて木本さんが頭叩いてツッコんだ時に、客席が「えー」ってなっちゃったんですよ。女が男に強く突っ込まれてかわいそうって思われたのか。それすごいこっちが申し訳なくなっちゃうから、木本さんに。

 でもああいう時どんなリアクションをしても無理なんですよね。女を叩いてるという事実なので。だからもう難しいなと思う。

 

容姿なんて、魂がとりあえず入ってる箱なのに

 

――お客さんが引いてしまう。

鳥居 だから一切そういうことを感じさせない、性別を感じさせないことをやっていきたいなと私は思うけども、でもそうなると女としての利点を生かすような、妊婦のネタとかできないじゃんって思っちゃう。

 

――たしかに。

鳥居 「意外とかわいいんだ」みたいなのも、それいる?って思いますよね。インスタにあげた写真のそういうコメントだけ抜き出してネット記事作られたりするじゃないですか。インスタの文章はちょっとボケてたりするのに、そこ載せないでコメントの「かわいい」を載せるんかい、みたいな。

 

――女性芸人なのにかわいいとか、それこそ鳥居さんがずっと言われてきたことかもしれない。

鳥居 ありますよ、それは。私、そんなのどうでもいいのに。容姿なんて魂がとりあえず入ってる箱としか考えてない。別に番号で呼ばれてもいいし。のっぺらぼうじゃないだけだよって感じです。

 ドラマの『天国と地獄』も女と男の入れ替わりじゃないですか。あれも視聴者は、どんだけ男っぽくできるか、どれだけ女っぽくできるかのふり幅でしかみてないですよね。そこのふり幅があればあるほど、演技がうまいって評価するんですよ。でもそこじゃないじゃん、みるところって。そこ以外も元々すごいんだよあの2人、って。

 

――結局その人が持っている「男っぽさ」「女っぽさ」に引っ張られている。

鳥居 だからね、ネタを見るにあたっては「女っぽさ」は排除していった方がいいなと思って。前に事務所でネタ見せがあって、私は見る側だったんだけど、その時に参加してた女芸人のスカートが短くて、スカートの中見えるか見えないかみたいな感じでネタに集中できなかったんですよ。

 だから「女のネタだけどこういう視覚的な女の部分は排除していってください」と言ったんです。そしたら「鳥居さん怖い」みたいなのが広まっちゃって、後輩の中で(笑)。

 

――鳥居さんが言いたかったのは大事なネタが目立たなくなっちゃうということですよね。

鳥居 そう。だけど彼女たちにしてみたら「女芸人だし、女を武器にする時代じゃないですか」みたいなことなんです。だけどそれは違うでしょうと。女としてはもう文字で表しなさいよって感じ。

 

「女枠」が「フリップ」「一言ネタ」と並列になっている

 

――女は文字で表現する。

鳥居 そう、そこは脚本で表せばいいだけであって。見た目だったらスパッツ穿いてよ、なんならズボンでいいじゃんっていう。そういう勘違いしてるやつがイラつくんですよ。私最近の『THE W』とかもあんまり興味なくて。

 

――なぜ興味を持てないのでしょうか。

鳥居 前の『R-1』もそうですけど、なんか枠としてしか考えられてなかった気がするんですよ。男芸人の中のフリップ、漫談、コントとか一言ネタとかのジャンルの中に「女枠」という感じだったと思うんです。そういうの腹立つんですよ。女をひとつの枠として見てんじゃねぇよっていう。

 

――「フリップ」と「女」が並列になっている、なるほど。

鳥居 私のこと女としてみないでって思ったのが、男芸人の彼女ですね。芸人仲間でどっか行こうという時に男芸人の彼女が「今誰がいるの」「女芸人いるの?」ってすごいうるさい。「いやでも鳥居だよ」って言ったら「あっなら平気か」ってなるのもよくわからんけども。

 

――「女芸人は男芸人が好き」っていう思い込みをやめてよっていうのは、よく女芸人さんが言ってますよね。

鳥居 好きじゃねぇよっていう。仕事上のライバルとしてしか思ってないから。男だろうと女だろうと。ていうか人は、背景にすぎない。背景というか、書割みたいな。あまりなんとも思わないですね。  私昔一言ネタをやった時期があって。その時 渋谷La.mama のネタ見せで、ネタを見てくれた作家さんに「だいたひかるの二番煎じじゃん」って言われたことがあって。だいたひかるさんとかアンラッキー後藤さんとかそこらへんの時代だったので。

 それで、あぁもうめんどくさって思って、そこからコントをやりだした。もう人とかぶることはやめようと思いましたね。めんどくせぇから。違うと言ってもその違いをあんまりわかってくれないじゃないですか。でも自分自身がその時期キャベツとレタスの違いがわからなかったので、傍から見たら私もこうなんだって。

 

姉宛の年賀状を庭に埋めていた…鳥居みゆきが語る「コンプレックスとの折り合いのつけ方」 鳥居みゆきさんインタビュー #3

 

「ブレイクした時に死ぬ」「35歳で死ぬ」過去のインタビューで度々そう話していた鳥居。「今は余生」と語る鳥居の、生と死に対する並々ならぬ興味は今新たなモチベーションとして彼女を突き動かしている。  友だちが欲しくて芸人になろうと決めた鳥居は、この世界で友だちを見つけたのか。生きづらさの向こう側にあったのは、果たして。 10人に1人わかってくれたらいいな、で始めたことだったのに

 

――プライドを捨て、ポップにして……見事ブレイクを果たしましたよね。

鳥居 そんなブレイクしてないと思ってます。前に「一発屋芸人特集」企画のサンミュージックの枠に私入ってなくて。「えー、私入ってないんだ」って言ったら、チーフマネージャーに「一発もあててないじゃん」って言われたんですよ。だから、やっぱそうなんだと思って。

 

――(サンミュージックの一発の壁高いな……)テレビはどうでしたか、鳥居さんにとって居場所だったんでしょうか。

鳥居 うーん、私がテレビに出だした時は「放送コードを延ばした人」と言われたんですけど。それでもやれること少ねぇなと思って。言いたいことを言ったらカットされるし。でもなんか……人に合わせて、色んなMCに合わせてって結構しんどかった。

 

――しんどいと思いながら出ていたんですね。

鳥居 やりたいことは単独だから、知名度を上げたいなと。単独がやれれば私は幸せです。私、血が好きなんですけど、血とか骨とか、そういう生や死に関してすごく興味があって。それはお笑い関係なくずっと好きで。

 ただ、なんだか違うなと思ってきたのが、単独を何回かやってきた頃、グロから考えるようになった時があったんですよ。お客さんが求めてるから、グロいことから考え出そうという発想になっちゃった時があって。

 あっそれはよろしくないなと思った。私の好きなことは人からみたらちょっと変わってるかもしれないけど、「変わってる」から始めちゃだめじゃんって思ったんですよ。

 

――すごく難しいですね。

鳥居 私がやりたいことの脳みそをコントにして出した時に、10人に1人はわかってくれたらいいなで始めたことだったのに、今は(10人のうちの)10人にしたくなってるじゃんって思っちゃったんですよ。100笑いをとろうとしちゃった。

 それぐらいの時期に、PVを自分で監督して撮らせてもらったんですね。その時に規制がかかった。リストカットのシーンがあったんですけど、そのシーンをカットしてくれと言われたんですよ。ちょうどそういう事件があった時で。

 

――あぁ。

鳥居 その時に、私はそのシーン、伝えたいことの中の1個だったから、別になくてもいいやと思ったんですけど、チーフマネージャーがなぜかすごい私をフォローしだして。会議中に「鳥居の世界は血がないと成立しないんですよ!」って。あれ、私のことわかってくれてるんだなと思ったんですよ。  でもその後に「鳥居から血を取ったら何が残るんですか!」って。いや残るよー!って。

 

――熱い(笑)。

鳥居 その熱さ違うって(笑)。ああ私、そう見られてたんだって。そういうこともあって、じゃあ一回グロくないのを作ろうって変わりました。あまのじゃくなので。

 

35歳いつまでも来なくて、気づいたら36歳やってたんですよ

 

――「ブレイクした時にいつ死のうかなと思ってた」というのは、本当ですか。

鳥居 そうなんです。

 

――「小島よしおはそれができなかったから死に損ないだ」というのは?

鳥居 そうそう、死ぬタイミングを誤ってます。でも私も誤ってます。でも死んだように、もうほんとに何も思いのない余生を楽しんでる感じ、今。余生。びっくりしたのが、私ずっと「35歳で死ぬ」って言ってたんですけど、35歳いつまでも来なくて、気づいたら36歳やってたんですよ。

 

――どういうことですか?

鳥居 イベントで計算間違えて「36歳の誕生日おめでとう!」ってやってたら、ほんとはその時35だったんです。事務所も私も36だと思ってて。

 

――そんなことあります??

鳥居 それに気づかず、その後東スポさんの記事で年齢が間違ってたからマネージャーが電話かけたんですよ。「ちょっと年齢間違ってます」って。そしたらこっちが間違ってた(笑)。

 

――よかった、鳥居さんはまだ死んでない。

鳥居 なんかうまい具合死ねなかったんですね。空白の35歳。あとこれもよくなかったと思うんだけど、毎年「28歳おめでとう生誕祭」をやってるんですよ、私。毎年28歳。成人式を2回やっちゃう安西ひろこさんみたいな感じで。

 

――(笑)。

鳥居 毎年毎年28歳おめでとうをやってるから事務所も自分もわけわからなくなりました。

 

――「28歳」は何か理由があるんですか。

鳥居 永遠の28歳。あの28歳の時のまま止まってるんだよ。それは女芸人に迎合したところあります。女芸人って若くいたいとか思ってなきゃいけないんでしょ、っていう。

 

――別に若さに固執してるわけじゃないのに、なんでしょうね、「老化」って言葉がネガティブなのか。

鳥居 私、コロナで2回流れた単独ライブ、すっごい準備したけど、次にできるとしたら一切もう白紙にしてね。書き直す。あれは古い脳みそで書いたものだから。だって生まれ変わりました、私は。細胞ってそうなんだって。『テセウスの船』と一緒だね。

 

――『テセウスの船』ですか?

鳥居 私を構成しているパーツを全部新しくしたら、それは私なのか、それとも別物なのかっていう。老化っていうけど、細胞って生まれ変わってるから、だったら今が最新じゃないのかな。

 

――老化ではなく新しくなっている。

鳥居 脱皮ですよ。日々脱皮してるんですよ。

 

――日々生まれ変わりながら、鳥居さんは今どんな気持ちで芸人をやっていますか。

鳥居 今ね、まだ折り返し地点。給水所ぐらいかな。私、フルマラソンの時に給水所で間違ってポカリを体にかけちゃって。後でベットベト、ネチャネチャしてきて。

 

――(笑)。

鳥居 でもそんな感じ、今。首ベットベトになりながら今生きてますね。だけどそういう枷があるからこそ楽しいんだなみたいな感じもある。私不自由じゃないと自由になれないから。なので制限がないと、それを破った時の喜びもないじゃないですか。

 

――「何やってもいい」って発注されるのが私も一番辛くて(笑)。お題をもらえないと何もできない。

鳥居 私もそうですよ。「鳥居さんここで自由に」みたいな台本、こんな不自由なことないよっていう。ある程度制限がないとね、人って生きづらいですよ。それを破るかどうかだからね。

 

生きづらさを納得して楽しめるようになりましたね

 

――芸人になるきっかけになった「友だちを作る」は達成されたのでしょうか。

鳥居 この間ナイツの塙さんが「俺たち友だちだよ」って言ってくれたから、そうなのかもしれない。でもお互い大人になって確認し合わないじゃないですか。私確認し合ってないからひとりもいないのかもしれない。

 

――確認するのちょっと怖いですよね。

鳥居 学生時代って友だちいない人は異端じゃないですか。なので異端になったらダメなんだって思い込みすぎてたんだと思います。今の私で学校にいたら、友だちが欲しいってたぶん思わないと思うので。その時はその世界が全てじゃないですか、学校が。

 

――芸人になって広がりましたか、世界の範囲は。

鳥居 私がやるネタは友だちが増えないネタでした。でも友だちが欲しいというのは、人に認められたい、自分が存在してるっていう証が欲しいってことじゃないですか。だけどネタで認められたら、自分の存在を認められたということだから、友だちもういらないんですよ。芸人になって、そこはまわりくどいことしなくてよくなった。

 

――そう考えて、生きやすくなりましたか?

鳥居 生きづらいですよ。だけど生きづらさを納得して楽しめるようになりましたね。昔はすぐ「生きづらい」「もういない方がいいんだな」「死んだ方がいいんだな」ってなってたんですけど、最近ではそれこそ原動力なことに気付いて。その反動ですっごい暗いネタが書けたりするんですよ。  ほんとに落ち込んだ時に「もうやめる、もうやめたい、死にたい」ってマネージャーさんにライン送ったら「そんなことより単独ライブどうします?」って返ってきて。

 

――(笑)。

鳥居 あっこういうことだなって。全てはそうだと思って。それですごい救われたことがありました。ほんと、自分だけでぐじゃぐじゃぐじゃぐじゃしてないで、それを違う風に出力できた方がいいじゃんって。だから死にたいってなった時こそパソコン開きます。あー書くかって。

――落ちた時に書いたネタは面白いですか?

鳥居 そうですね。深みがあるというか、情念がこもってる。あとあれですね、芸人やるということを親にまだ報告してなくて。

 

――えっ。

鳥居 「私お笑い芸人になるから」って言ってないんですよ。でも今更報告って聞きたいもんなのでしょうか。

 

――でも……ご両親も聞いてはこないわけですよね。芸人なのかい?って。

鳥居 そうなんですよ、聞いてこないんですよ。

 

姉宛の年賀状を庭に埋めた…幼少期のコンプレックス

 

――幸せな既読スルーがあるんですね、お互いに。

鳥居 そうね。なんか私の名前、すごく想いがあってつけたらしいんですよ。だからそれに背いちゃってないかなって思うと言いづらかった。  私、姉がいて、姉は「ちはる」っていうんですけど、親が「いや、その時松山千春にハマってたから」って言ってて愕然としてましたね。それを思い出して、なんか悪かったなと思って。

 

――お姉ちゃんへのコンプレックスありますか?

鳥居 うん……姉とはずっとしゃべらなかったですよ。私がほんとに暗いのに、姉はすごく社交的で明るくて、色んな友だちがいっぱいいて。年賀状もすごいきてましたし。姉にきた年賀状を庭に埋めてましたもん。  私一時期すごい太ったんですよ。すっごい太って、だけど姉はきれいなままで。もともとあったコンプレックスがそれでまたひどくなって。大人になって、私の方が稼ぐようになってやっと許せたんです。

 

――自分の方が勝てる何かを見つけたからですか?

鳥居 勉強は私の方ができたけど、それで相殺にはならなかったんですよね。収入だったんです、自分の中で。自分なりの相殺点を見つけることなんでしょうね。こことここでチャラ、みたいな。

 

モヤモヤは一回解決しないと先に進めない

 

――鳥居さん「生きづらい」とおっしゃるけど、人生の折り合いのつけ方はとても上手な気がします。

鳥居 ほんとですか。

 

――モヤモヤをちゃんと一回解決してから前に進んでいる。

鳥居 そうなんですよ、解決しないと進めないですよ。

 

――先に進めない(笑)。

鳥居 だから今自分の中で問題になってることや社会で気になってることを、単独ライブでいっかい解消して。じゃないと次のテーマに進めないので、だから絶対に早くやりたい。

 

――「男だったらよかったな」って思ったことありますか。

鳥居 男だったら? ないですね。みんな早く人間としてみるようになってほしいとは思う。

 

――性別ではなく。

鳥居 うん。性別で分けるのって結局、肌の色で分けるとか、国で分けるとかと一緒じゃないですか。だからいらないと思う。  みんな一回のっぺらぼうになったら心で会話できるのになって思う。でもみんなそこに絵を描くでしょう、のっぺらぼうになったら。

 

――そうかもしれない。

鳥居 それで個性を出すんでしょう。結局一緒なんですよ。

 

写真=榎本麻美/文藝春秋