INSTANT KARMA

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楽しいブンガク

最近よく見ている動画に、吉本でお笑い芸人をしている斉藤紳士という人の「ワライとブンガク」というのがあって、

まだ再生回数は少ないのだが、芥川賞受賞作紹介シリーズというのが面白く、その影響で芥川賞受賞作をぽつぽつ読んでいこうとしている。 今まで読んだ中で簡単な感想を備忘録として残しておく。

 

第100回 李良枝「由熙(ユヒ)」

日本の大学を中退した在日韓国人の女性が韓国の大学に留学し、言語学を学ぼうとするがどうしても韓国を母国と思うことができず帰国した経緯を年上の韓国人女性の視点で描いた小説。教科書に載せるとよさそうな品格のある文章で、特に大きな物語的進展がないので、読後には静かな感動がある。 単にアイデンティティクライシスの問題という言葉では片付けられない重みがあり、文芸小説といよりテーマ小説としてすぐれていると思った。 この作家は37歳の若さで亡くなってしまったが、今の日韓について彼女がどういう小説を書くのが読んでみたかった。

 

第111回 笙野頼子「タイムスリップ・コンビナート」

シュールな作風で、こういうのは嫌いではないのだが、ちょっとついていけなかった。

 

第111回 室井光広「おどるでく」

ロシア語で書かれた石川啄木の「ローマ字日記」みたいなものを解読していくという物語形式をとっている。難解でちょっとついていけなかった。

 

第113回 保坂和志「この人の閾(いき)」

筋らしい筋のない、ひたすら穏やかな小説で、気がついたらあっという間に読み終えていて、そういうことは珍しいので驚いた。何気ないようでいて計算された文体というのを感じさせられた。

 

第114回 又吉栄喜「豚の報い」

呑み屋の女たちと若者が沖縄の神様詣でをするという筋立てで、選考委員がこぞって絶賛しているが今読むとあまり面白さが伝わってこない。当時の社会状況による沖縄バイアスとでもいうものがあったのではないかと感じる。

 

第115回 川上弘美「蛇を踏む」

これは天才的な作品だと思った。非現実と現実を混淆させる描写が上手で、ユーモアもあってとても気に入った。石原慎太郎が選評で全否定しているのが可笑しい。この小説には日本の女流作家のひとつの系譜に属する何ものかがある。

 

第116回 柳美里「家族シネマ」

唐突に家族のシネマを撮影するところから始まる設定にいまいちリアリティを感じず、この作家のその後の活躍を知っているだけに、才能に釣り合わない、何かもったいない作品という印象を受けた。

 

第116回 辻仁成「海峡の光」

読みながらなぜか百田尚樹の「永遠の0」を読んでいたときのことを思い出す。映画化狙ってる? みたいな仄かなあざとさを感じた。 これは通俗小説ではないだろうか。だが純文学と通俗小説の違いとは何だろうか、などと考えるきっかけをくれた。石原慎太郎の評価が高いのはいかにも、と感じた。