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佐伯一麦

現代作家で私小説作家を標榜する数少ない作家の一人、佐伯一麦の『一輪』、『木の一族』、『還れぬ家』を呼んだ。

どれも面白かったが、この人は、十代で家を出て電気工として働き、時には風俗店にも通いつつ青春時代を彷徨うという、西村賢太と似ていると言えば似ている境遇にいながら、作品の印象はまったく違うのが面白い。

第一、この人は西村と違ってモテている。風俗嬢との純愛を描いた『一輪』では、あっさりと目当ての女性との交際に成功しており(そもそもの出会いが客としてではない)、それ以外にも遊び相手には事欠かない様子がさらっと描かれていて、ソープ嬢と交際するために100万円からの金を投資して結局逃げられた北町貫多とはえらい違いである。

文体も、西村賢太のねちっこい昭和初期の私小説作家のようなものとは違って、クールで乾いた沢木耕太郎のようなスタイル。

『木の一族』では、そんな佐伯が22歳で子供が出来た女性と結婚したその後の生活が描かれるのだが、これも西村賢太とは違った意味でキツい生活である。妻との関係は冷め切っており、佐伯が妻との関係を赤裸々に私小説に書いたことが決定的な別離の原因となる。

『還れぬ家』では、佐伯が再婚後に、痴呆症の父親とその面倒を見る母親を、彼の妻と共にサポートする生活が描かれる。後半には東日本大震災のことも小説に取り込まれてくる(佐伯とその親は仙台在住)。

これはこれで、私小説作品として立派に成立しているのだが、個人的な好みからすると西村賢太のスタイルにどうしても共感してしまう。