ほとんど丸一日かけて『田中英光傑作選』(西村賢太編、角川文庫)を読む。
「オリンポスの果実」
「風はいつも吹いている」
「野狐」
「生命の果実」
「離魂」
「さようなら」
「野狐」、「生命の果実」、「さようなら」は読んだことがあったが、この並びで読むと一層味わい深いものがあった。
「オリンポスの果実」は太宰治の助言でかなり書き直したというが、具体的にどんな風に変わったのかが知りたいと思った。爽やか(?)な青春小説のようにも読めるこの作品の中にも既に後年の破滅的なデカダンの予感が後になってみれば漂っているのが分かる。
「風はいつも吹いている」を読んで、この時期の作品(共産党もの)がもっと読みたくなった。直情的で純粋すぎる性格がそのまま文体に反映されていて、ここにも危うさがある。
「野狐」や「離魂」や「さようなら」のような、最晩年の、血をダラダラ流しながら書いているような小説は、読む方にも気力と体力がないと、付いていくのがけっこうきつい。それでも、言葉のあらゆる意味において強烈に面白い私小説だ。