高峰秀子著『にんげん蚤の市』収録「人間鑑定図」より
ある日のせりに、俗にお歯黒壺と呼ばれる越前の壺が出た。丹波、信楽(しがらき)など、ゴツゴツとした土(つち)ものにはあまり縁のない私だけれど、そのお歯黒壺は珍しく小型でコロリと丸く、生意気に一丁前の貫禄、品格もそなえている。その壺を見たとき、私はなぜか、 「あ、少年時代の小津安二郎だ」 と思った。なぜ、少年時代なのか私にもわからないが、とにかくそう感じたのだからしかたがない。 ・・・少年時代の小津安二郎に出会ってから、今度は逆に、人間を物に見たてる、というおかしなクセがついた。ざっと書き並べると、こんな工合になる。
梅原龍三郎 大明万暦赤絵、
川口松太郎 古染付、
松本清張 船箪笥、
成瀬巳喜男 黄瀬戸、
市川 崑 織部焼、
仲代達矢 大名時計、
笠 智衆 埴輪、
幸田 文 花唐草、
杉村春子 染錦、
水谷八重子 色鍋島、
森 光子 タコ唐草、
泡沫タレント ベロ藍、
高峰秀子 むぎわら手
少年時代の小津安二郎 越前お歯黒壺