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Mayte Garcia回想録(8)

2011年に、アメリカのテレビ番組『Hollywood Exes』のレギュラー出演の仕事が決まった。それはリアリティー・ショーで、セレブの元妻を追いかけるという趣向の人気番組だった。Rケリーの元妻なども出演していた。

その仕事は、当時「多発性硬化症(MS)」という診断を受け、何とかして定収入を得ようと必死になっていたマイテにはまさに天からの贈り物に思えた。

この時期から、長く苦しかったマイテの人生はようやく好転したようだ。

動物愛護団体を立ち上げ、「ハリウッドの元妻たち」のギャラで得たまとまったお金をそれに注ぎ込んだ。そして、友人が養子をもらったことを知り、自分も養親になるための勉強を始めた。研修を受け、名簿に登録し、縁組の機会を求めたが、なかなか順番は廻って来そうになかった。

ある日、入院先でテレビを見ていた少女が、リアリティー・ショーに出演しているマイテ・ガルシアというラテン系の女性に目を留めた。彼女は産婦人科を訪ねて子供が欲しいと相談していた。三十八歳で、二度の妊娠経験があったが、未だ子供には恵まれていなかった。

少女には生後九か月の赤ん坊がいた。バイト先で知り合った男は、彼女の妊娠を知ると堕胎を迫った。彼女はそれを拒絶し、出産したが、独りで育てる自信はなかった。バイトでケガをして入院している間も、病室で子供と一緒だった。テレビで見たこの女性なら育ててくれるかもしれないと思い、彼女のホームページにメッセージを送った。

あなたのハートに触れることを願ってこのメッセージを送ります。

マイテさん、私には赤ん坊がいます。相手からは堕胎を勧められました。私はメキシコ人で彼は白人です。彼は私が生むなら面倒は見ないと言いました。私はストロベリーブロンドの髪をしたこの九カ月の娘を育ててくれる人が現われることを神に祈りました。あなたを見てこの人ならと思いました。私のインスタに娘の写真が載っています。よかったら連絡ください。

初めにこのメッセージを読んだときには、また誰かのいたずらだと思った。でも万が一本当だったらと思って、友人に頼んで連絡を取ってもらった。その友人は少女と長いやり取りをして、彼女が嘘をついていないこと、カウンセラーを通じて養親を探していることなどを確認し、一度会ってみたらどうかと言ってくれた。

マイテはツイッターで彼女にメッセージを送り、長いことやり取りした。少女は娘(ジーア)の面倒を見てくれる人を探すのにどれほど苦労してきたかを述べ、スペイン語と英語の両方ができる家族を探していると言った。

マイテは赤ん坊の年齢を訊ねた。

ジーアは2011年11月12日に生まれました

との返信がきた。

息が止まりそうになりながら、

私の誕生日と同じよ!

と返した。

次の瞬間に送られてきたジーアの写真を見て、マイテは泣きだした。

「世界で一番美しい女の子 the most beautiful girl in the world」と思った。――

ジーアがもうすぐ五歳になる頃、まだ『パープル・レイン』を見せる年ではないので、『7』のMVを一緒に見た。プリンスが死ぬ数か月前だった。

「このダンスしてるのはママでしょう?」

「そうよ」

「このギターの人は誰?」

「プリンスよ」

「ママはこの人のことが好きなの?」

「ええ」

「赤ちゃんはいるの?」

この子はどうしてそんなことを言ったのだろう。たぶんビデオに大勢の子供たちが出ているからだろう。

「ええ」嘘を言いたくはなかった。「プリンスと私には男の子の赤ちゃんがいたのよ」

「その子はどこにいるの?」

「天国にいるのよ」

つづく