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Drive My Car感想(ネタバレなし編)

『ハッピーアワー』と『親密さ』がとても好きで、他の初期作品も機会があれば是非見たいと思っていたほどだった濱口竜介監督作品で、昨年の8月に公開されているのは知っていながら、今の今まで観に行こうと思わなかったのは、前作『寝ても覚めても』の印象がよくなかったからで、そのことは公開当時のブログ記事に書いた。

もう一つ乗り切れなかったのは、村上春樹原作ということと、「ドライブ・マイ・カー」というタイトルに〈あざとさ〉みたいなのを感じたからだ。村上春樹の小説はほとんど読まない(いちど批判的に検討するために少しまとめて読んだことはあるが、ほとんど印象に残っていない)。その世界観にも馴染めないものを感じている(村上春樹の翻訳作品は好きだし彼の日本の短編小説紹介などはとても参考になった)。

「ドライブ・マイ・カー」というのはもちろんザ・ビートルズの有名な曲のタイトルで、この曲が入っている「ラバー・ソウル」というアルバムの1曲目だ。それで2曲目が「ノルウェーの森」だ。あざとさを感じないほうがおかしいだろう。

村上春樹原作で「ドライブ・マイ・カー」か。やれやれ。という時点で見る気を削がれた。もちろん映画の中身は知らないしレビューなども一切読まなかった。

しかしさすがに海外で次々に賞を取り、アカデミー作品賞の候補にまでなったとのことなので、見てもいいかという気分になった。

貴重な平日の時間を割いて見に行って、日比谷のTOHOシネマだったのだが、最初に間違って日比谷シャンテに入って店員から教えてもらうまで時間がかかったし、いざ映画館に入っても、映画が始まるまでの30分くらい延々とCMやらくだらない宣伝ばかり見せられてウンザリした。もう見る前に席を立とうかと思ったくらいだ。

本編が始まってからもしばらくは「やれやれ・・・」と思いながら眺めていた。しばらくすると映画の世界に引き込まれ、気が付くと三時間の上映時間が終わっていた。

見ながら、「これは傑作だわ・・・これは・・・。」と頭の中で繰り返してた。

不意に号泣しそうになるシーンがいくつかあった(こらえた)。

戻ってからチェーホフの「ワーニャ伯父さん」を読んでまた泣いた。

ユーチューブで力のこもった感想を語っている人たちの動画を見ながら感心した。

この映画だけで一冊の本が書けそうな勢いだ。

間違いなく濱口監督の代表作となるだろうし、彼ならこれからもこのような、あるいはこれ以上の映画を作るのではないかと思ってしまう。

個人的にも身につまされる映画だった。