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『ツェッペリン飛行船と黙想』事件(2)

前回、暁の孫のブログに依拠して書いた、2012年5月23日の話し合いの模様が、「あかつき文学保存会」会報に会側の視点から書かれているので引用する。

「あかつき文学保存会」会報第五号に掲載された「解散の経緯」より


 「上林曉の文学資料を公開し保存する会」(略称「あかつき文学保存会」)は2012年6月30日付総会(持ち回り)での会員投票により、一年後に解散することを決めました。(中略)
 まことに不明ながら、それは2012年5月23日に突然起きました。この日は、かねて上林暁の作品集出版を企画していた出版社からの協力要請で、上林作品をめぐる諸状況について関係者らが自由に意見を交換する場としてもたれていました。
もとより、出版契約となれば著作権者と当事者間でなされるもので、保存会として何ら関知するものではありません。
 しかし保存会が上林作品に強い関心を持ち相応の実績を持つことを知るがゆえの協力要請であり、読者のひとりとしてどういう作品を読みたいか、また読んでもらいたいか、未発表作品にはどんなものがあるかなど意見を交わすにやぶさかではないと考えました。(略)
 このことは23日の冒頭にも明言し、この前提に立って、同席した(三名)がこもごも個人としての意見ないし感想を述べ、また保存会として取り組んでいる上林作品の公開、保存、研究の状況についても説明しました。
 ところが突然、これら発言に不快感を露わにした上林暁の孫・大熊平城さんから著作権保持者の優位性を強く主張する発言があり、同時に上林暁の妹・徳広睦子さんの手元で一貫保持保存されてきた上林暁の生原稿をはじめて関連資料を大熊平城さんの手元に移し替えるとの表明がありました。
 当初は、いかにも唐突な発言であり、真意がどこにあり、具体的に何を目指しているのかも見えませんでした。しかし、この場は何かを決めたり、議論して結果を出したりする場ではないので、言うだけ、聞くだけに止まり散会となりました。
 ただこの事態、前後振り返りますと、若干入り組んでいまして、当の23日以前の段階で大熊平城さんと当出版社の上林暁担当者から当会代表のサワダオサム氏(滋賀県草津市在住)へぜひ訪問したいとの意向が伝えられ、その後なぜか音信途絶え、再度またという保存会にとっては迷惑などたばたがあり、このやり取りの中で、大熊平城さんから届いたサワダ氏宛ての手紙(5月26日付)が事態をより明確にすることとなりました。
 「次に天沼の徳広睦子宅にある資料についてです。資料の所有権は著作権と同様、上林暁の子供たちにあります。彼らの委託を受けて徳広睦子が管理していましたが、数年前より睦子の老衰が進みましたので、私がその役を引き継いでいます。私はそれと同時に、保存会及びそれと関係の深い二つの出版社(夏葉社、幻戯書房)に対する遺族側の窓口役を勤めています」
 「現在私と母とで天沼の睦子宅の資料を、より安全かつ適切に保存するために、川崎の拙宅に移動しつつあります。整理も行い、研究に利用できるような環境を整えていくつもりです。・・さんはこの資料のことを大層ご心配のようですが、我々がきちっとやりますのでご安心ください」
 「現在『あるオールドジャーナリストの回想』を判読しているとのことですが、個人誌に発表する前に、お手数ですが判読した文章をこちらまでお送りください。その際にそれに該当する左手原稿のページ番号をお知らせください。こちらでも照合してみます。他のノート類についても同様にお願いいたします」
 これは形はサワダ氏宛の私信ですが、内容は当保存会にかかわるものであり、宛名のサワダオサム氏は当保存会の代表です。当保存会に対する遺族の一人(窓口役と自称している)からの明確な意思表示と受け止めました。
 したがって、保存会としても事態を見極め、緊急に対応を決めると同時に、保存会の先行き、存立そのものについても決しなければならないと判断しました。
 判断にあたっての要点は
 ①上林暁の旧宅にあった文学資料は現実に大熊平城を「窓口」とする直系遺族の手に移り、すべて管理されている。
 ②今後、遺族の手元にある上林暁の文学資料を利用するときは遺族の認可が必要とされ、その成果を発表するときは事前に遺族の目を通させるよう求められる。
 ――の二点です。
 緊急の幹事会は6月14日、東京で開きました。代表の萩原茂ほか・・、・・が出席、療養中で滋賀県草津在住の代表サワダオサムとは常時連絡を取り合いました。
 ①については事態をそのまま認めるほかありません。もともと当保存会は、上林暁の文学資料が上林暁の死後、一部が高知県黒潮町上林暁文学館に寄贈されたほかは確固とした公開・保存・研究への動きが起きないまま徳広睦子さんが独り生前のままに保持してきた労苦に共感して立ち上がったものです。その設立基盤である環境が一変し、当保存会独自の展開が難しくなった事態を踏まえれば、既に当保存会の役割は果たしたと言っていいでしょう。(略)先行き部分に不透明な不安があるとしても、遺族の中にとまれ、責任管理の意志があり、現実に管理されているとすれば重く、前向きに尊重されるべきです。
 ②については、忽せにはできない問題が多々あります。本来、文明、文化の所産は広く自由に活用されるべきものです。半面創造者個人にも、創造にいたる生活者としてのコストがあり、そこの折り合いをつけるために制限的に設けられたのが著作権です。ここを本末転倒してはややこしくなり争いの所以となります。
 上林暁研究にあたっても、さまざまな人たちがさまざまに研鑽、努力を重ねてきているわけであり、その成果発表にあたっても事前に何等の検閲を受けるべきものではなく、新たな成果、新たな著作物として扱われて評価されるものです。(後略)