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清水信「作家と女性の間」

国会図書館デジタルライブラリーで読めるようになった本の中に、清水信「作家と女性の間」(現文社、昭和42年)というのがあって、中々面白かった。

先ほど完結した『田中英光全集』十一巻(芳賀書店刊)に対して、私は文句を言った。初めての全集で、もちろん良心的な出版ではあったが、彼がカストリ雑誌にかきなぐった小説がほとんど収録されずに、全集から削られるという編集方針に、私は不満だったのである。同年生まれの織田作之助をライバル視して、売り原稿を書きなぐった形跡があるが、その荒れたカストリ小説の中に、こういう作家の乱世を生きた真のバイタリティーが見られる、というのが、私の考えで、粗雑な内容ゆえに、これを捨てたという短慮が惜しまれる。

抱擁家族』は、むしろ崩壊家族とすべきだと本多秋五は評したが、一人の女によって、家庭がメチャメチャになってしまうこの物語に対し、『弱い結婚』もヒステリックな妻とそれを持て余す夫の物語めいているが、単にそうとってもらいたくないと作者は述べ「ただヒステリックな女というのも、ただ気の弱い男というのも、この世にありはしない」と言っているのは至当だ。

彼(庄野潤三)がある短編に引用した格言「めんどりが歌い、おんどりが沈黙しているところに平和はない」ことが事実だとしても、私は山室静と共に、夫と子供の背景に退いて、あきらめと忍従的奉仕の中に微笑している女を描くだけでは、庄野文学が現代文学としての資格を大きく欠いていないかと疑う。

「風流夢譚」で世間を騒がせた深沢(七郎)には、私生活の面でも奇矯な言動が多く、女性関係でもあけすけな告白を書いていて、人に誤解を受けることの多い作家である。高橋和己のいうようにこの人の高等遊民的な生活は、殉教も転向もないが、確然たる自然の倫理に従って、社会層の最底辺に生きる庶民とともに、ものを見、考えようという決意があって、時々既成文壇や読書階級をアッといわせるようなことも起こるのである。
ケネディが暗殺されたとき、近所に赤飯を配ったというのは有名な話だが、初めて自分の選集が出版されたとき、その本のとびらに次のような言葉を書いた。
「人が死ぬのは、清掃作業とおんなじだから多く死ぬだけ綺麗になるんだ」――だれがこんなすごい逆説を、今までに言ったであろう。

この本が取り上げる「作家」は全員が男性である。

今年度の芥川賞直木賞の候補者10名のうち9名が女性というニュースには、隔世の感がある。

・ ビーナスとの戦い―三好達治/12
・    三つの恋の物語―井伏鱒二/16
・    志乃という女―三浦哲郎/20
・    描かれた唯一の〝女〟―大江健三郎/24
・    植物的な性の探究―吉行淳之介/28
・    車を運転する妻―安岡章太郎/32
・    妻に忍従を強いる―庄野潤三/36
・    天使のような生活―中村真一郎/40
・    可憐なもの食う女―武田泰淳/44
・    生きるはずかしさ―梅崎春生/48
・    戦塵に生きる女―田村泰次郎/52
・    絶対の誠実を否定―三島由紀夫/56
・    母につくられた作家―井上靖/60
・    人のよい哀切な女―大岡昇平/64
・    母を描いて三十年―丹羽文雄/68
・    章子をめぐって―源氏鶏太/72
・    夫婦間の性の深淵―菊村到/76
・    結婚の生態を追う―石川達三/80
・    死を取巻く性の匂い―伊藤整/84
・    毅然とした甲州女―深沢七郎/88
・    先妻・混血児・後妻―獅子文六/92
・    最初の妻のこと―北原武夫/96
・    背後にいる晴枝―藤原審爾/100
・    海を感じさせる女―石原慎太郎/104
・    女よ、真人間になれ―山口瞳/108
・    なぐられる妻―阿川弘之/112
・    ガンになるまで―小島信夫/116
・    会いたい人、おえん―水上勉/120
・    女詩人との出会い―開高健/124
・    狂乱の病妻に奉仕―島尾敏雄/128
・    性の肯定を主題に―石坂洋次郎/132
・    素直で公平な態度―杉森久英/136
・    内体のベアトリイチェ―野間宏/140
・    行きずりの人―中野重治/144
・    〝処女〟を求めて苦悩―嘉村礒多/148
・    生の確証を求める―高見順/152
・    縁は異なもの―川崎長太郎/156
・    愛の純粋な美しさ―滝井孝作/160
・    天衣無縫の〝芳兵衛〟―尾崎一雄/164
・    敗れて勝ったお鶴―上林暁/168
・    悪妻から深い傷跡―今東光/172
・    切実な美への祈念―舟橋聖一/176
・    真杉静枝との悲劇―中山義秀/180
・    百円を借りた女―柴田錬三郎/184
・    心ひかれる娘―藤枝静男/188
・    ふたり燃えつきて―織田作之助/192
・    「ほれたが悪いか」―田中英光/196
・    矢田津世子との恋―坂口安吾/200
・    清潔・残酷な十六歳―太宰治/204
・    三人の女性からの影響―小林秀雄/208
・    あけすけの正直さ―林房雄/212
・    忘れられない初恋―新美南吉/216
・    宿命的に夢追う女―堀辰雄/220
・    子供心にかえる女―川端康成/224
・    老人になりたい願い―横光利一/228
・    娘を美しく育てる―室生犀星/232
・    歓楽を大事業として―永井荷風/236
・    いかに生くべきか―谷崎潤一郎/240
・    サド的人間像―遠藤周作/244
・    五歳と九十五歳の間―埴谷雄高/248