War Is Over

 if you want it

Water seeks its own level...

徳田秋声「あらくれ」の一節を読んで、わずかな言葉で人間の性質を見事に捉えているのに感心する。たとえばお島についての次の描写。

「あらくれ」(四十一)の冒頭

一つは人に媚びるため、働かずにはいられないように癖つけられて来たお島は、一年たらずの鶴さんとの夫婦暮しになめさせられた、甘いとも苦いとも解らないような苦しい生活のいざこざからのがれて、どこまではずむか知れないような体を、ここでまた荒い仕事に働かせることのできるのが、むしろその日その日の幸福であるらしく見えた。

お島が幼いころ里子に出され、他人に評価されるために過剰適応気味に育ってきた様子が、「一つは人に媚びるため、働かずにはいられないように癖つけられて来た」という短い言葉の中で見事に表現されている。

この箇所が特に印象深かったのは、身近にまさにこういう気性ではないかと思われる人がいるからだ。ワーカホリック気味にも見える「荒い仕事」ぶりも、働かずにはいられない性質がそうさせているのだ、と思えば納得できる。本人はそれで満足とも思っていないのが厄介である。こっちにその不満を被せようとして来るのがさらに厄介である。

ぼくは常に生活の糧を得るための仕事をしょうことなしと考える人間で、出来る限り仕事以外の時間を確保し、そこで本当に自分のやりたいことをすることに頑ななまでに拘っていた。その考え方は今も変わりない(もちろんだからといって仕事に手を抜くことはしていないつもり)。妙な癖がついてしまったものだと思う。大学の授業がくだらなすぎた(くだらないと思いこみ過ぎた)のが発端だとおもう。

そんな自分の性分が受け継がれたのか、息子も就職に関してはほとんど考えなしに動いているように見える。警備会社に中途採用枠で応募して面接した即日内定が出て来週に入社するといって就活が終わったと言っているが、どうも水が低き所に流れていくように安易な道を辿り続けているような気がしてならない。

大学も都市デザインをやるとかいって入試のない通信制を選び、当初はインテリアコーディーネーターを目指すとか言っていたのが諦めて、コーヒーの資格を取ると言っていたのも、資格を取ったはいいがメーカーから仕事が来ないと言って止め、今年の四月から新卒枠で就職活動を始めたもののどこも受からず、結局去年ひと月余りバイトの経験のある警備会社を選んだ。

昨日は面接というものではなく、担当者(一名)がひたすら仕事について説明するのを聞いているだけで、もう採用ありきの事前説明に過ぎなかったようだ。正社員とはいうものの最初は現場仕事、それも建設工事の現場に二、三週間付かせて様子を見ると言われたそうで、その現場は業界でも評判の悪いことで有名だと自分で調べて言っていた。

この数年自宅で昼夜逆転生活を続け一日中PCに張り付いてVチューバ―の動画ばかり見ているような奴がいきなり朝八時から夜までの現場仕事を毎日続けられるものだろうか。たぶん初任給が出るまでに根を上げそうな気がする。ヘタをしたら八月に倒れてそのまま辞めるのではないか。口では偉そうなことを言う割には安易な道ばかり選んでいる。

まあ自分も仕事なんか何だって構わないと投げやりに考えていた人間なので、息子に対してちゃんとした企業に就職せよなんて偉そうには言えないというのはある。