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宮水をめぐる便り

「すばる」2018年7月号掲載の小説・二瓶哲也「宮水をめぐる便り」を読む。

その前に読んだ「ヒマラヤ杉の年輪」がなかなか面白かったので、他の作品も読みたくなった。

この小説も、三十代の男性が総合病院の清掃作業員のバイト面接の返事を待っているという冒頭部分を読んで、私小説的なものへの期待が高まったが、そういうものとはまったく違う、宮水という地方集落をめぐるさまざまな人間模様の描かれた、テイストとしては佐藤泰志海炭市叙景に近い小説だった。

それぞれのエピソードが伏線になっていて後で回収されるというパターンではないので、どれもぶつ切りの印象が残る。「海炭市叙景」のように各断片が独立した輝きを備えているとまではいえず、中途半端な感じは否めない。最初に出てきた男性が最後にも登場するが、作品の締めとしてさほど効果的ではない。各エピソードの関連性もたいして意味のあるものとは思えない。

かなり厳しめの言葉が並んでしまったが、小説全体の感想としてはあきたりないとはいえ、読んでいて退屈で投げ出したくなるような文章では決してなかった。

個人的には、裕奈と「ホルモン野郎」を忌々し気に見つめる父親の過剰性にグッと来た。