War Is Over

 if you want it

Baby Broker

映画「ベイビー・ブローカー」を見た。

去年、映画製作の発表があった時点から関心はあり、カンヌで受賞というニュースを見てますます見たいという気がしていたので、やっと念願が叶ったかたち。

是枝監督のカンヌ受賞で話題になった割には日本では客入りがイマイチなのか、もう上映館も限られてきているようだ。自分が見た館(日比谷シャンテ)でも半分に満たない感じだった。ちなみに是枝監督の「万引き家族」は見ていない。

ぼくがこの映画で一番見たかったのはIU(イ・ジウン)の演技なので、全編にわたって彼女が出ずっぱりだったということだけで個人的には十二分に満足であった。

第75回カンヌ国際映画祭ではソン・ガンホが最優秀男優賞を受賞したが、どう考えても、ぼくの贔屓目を抜きにしても、この映画のMVP (Most Valuable Player) は彼女以外に考えられないと思うのだが、これは一体どういうカラクリが働いているのだろうか、と思わず陰謀論的な見方に走りそうになる。

まあ、それはともかく、映画としても、さすがに是枝監督、さすがにカンヌ出品作品、ということもあり、一定の水準はクリアしていたと思う。

なぜこんな奥歯に物の挟まったような歯切れの悪い物言いになるのかは、見て頂ければ分かると思うので、関心のある方はぜひ劇場に足をお運びください。

というわけで以下ネタバレ全開で行きます。

 

 

撮影発表時点のニュースで、是枝監督は日本のいわゆる「赤ちゃんポスト」に発想を得て脚本を書いたのだと伝えられていて、それは確かにそうなのだろうが、映画からはこの「赤ちゃんポスト」の仕組みがどうなっているのかが必ずしも明確に伝わらず、是枝監督得意の〈社会問題提起型〉というより、映画のストーリーの〈仕掛け〉として(悪い言い方をすれば)利用しているような印象を受けた。

疑似家族的要素(「万引き家族」は見ていないが多分類似するものがあるだろう)を含むロードムービーあるいはサスペンス的な物語として一応成立はしているが、ちょっと柱がドンと真直ぐに立っていないというか、もっとシンプルにしてもいいのでは、とやや複雑みのある展開を追いかけながら偉そうに考えていた。

一番重要な部分は、ソヨン(IU、イ・ジウン)とウソン(赤ちゃん)との関係性、つまり母の子に対する愛情をいかに描くかだと思うのだが、冒頭で赤ちゃんを寒空に地面の上に置き去りにしたり、その直後に引き取りに行ったり、行動が一貫しないのでソヨンの内面が良く分からない。ここはあまり複雑に描く必要はなかったと思う。

ソヨンは、ウソンを金で売るというサンヒョンとドンスの提案に乗っかって売買の現場に同行するが、終始ウソンに素っ気なく接していて、後になってそれは別れの辛さを軽くするためだった、と(ドンスの口を借りて)説明する場面が出てくるとはいえ、ソヨンがウソンに明確な愛情を示す場面は最後まで出てこなかったように思う。

途中、ソヨンが鼻歌を歌いながらオムツを変える場面があるが、これはたぶんIUのファンだった是枝監督の趣味が勝って(?)挿入した場面なので、十分に効果的でない。

ソヨンは彼女自身が孤児で、遣り手ババアに拾われて売春させられていたという設定で、ウソンは客である暴力団員との間にできた子である。そしてソヨンはこの男(ソヨンの父)を殺害している。その原因は男がソヨンを奪おうとしたからだ、というのだが、それならどうして赤ちゃんポストに出したのか。これも後になって「人殺しの子にしたくなかったから」と(ドンスの口を借りて)説明されるが、どうもいちいち不自然な行動を後付けで正当化している気がしてしまい、素直にストンと腑に落ちなかった憾みがあった。

物語の中核になるソヨンの行動の軸がブレているから、終わり方もああいう曖昧な感じにせざるを得なかったのかとも思う。「人身売買」の犯罪摘発のために追跡する女刑事(デカ)二人組も鍵となる役割なのだが、年長の方の家庭の事情のようなものが中途半端に描かれるのもあまり効果的ではなかった。捜査に協力するソヨンの動機も見ていてよく分からない。いろいろ想像の余地はあるが、そこはあまり想像をたくましくして楽しむようなところではない気がする。

要するに、全体にもっとシンプルな筋立てにした方がよいと思った。ちょっといろいろ詰め込んで複雑にしてしまっている気がした。

こんな風にネチネチと個人的にあきたりなかった部分をあげつらっていくのもあまり気分がよろしくないのでこれくらいにする。

上記のように、十分に入り込めない部分は残しつつも、随所にエモさが高まって涙腺が決壊させられる場面が多くて困った。さいきん老化のせいかやけに涙もろくなっていて、エモくされると理屈では納得していなくても簡単に泣いてしまうのである。

見た人は分かるでしょうけど、ドンスとソヨンの観覧車での疑似(?)プロポーズの場面とか、暗闇の中でのソヨンの「生まれてきてくれてありがとう」とか。特に後者は、「最近いろんなところで見聞するこのフレーズに、世間の皆様は飢えているのだろうか? そんなに誰もかれも〈無条件の承認〉を欲しているのだろうか?」などという捻くれた思考が頭を過っていながら、やっぱり無条件に泣いてしまうのだ。これを何とかしてほしい。

最後に、素朴な疑問として、是枝監督はなぜ韓国で映画を撮ったのだろうか? いうまでもなく韓国は映画でもドラマでも最上級のコンテンツを生産し続けている国であり、それこそ〈エモい〉作品であれば、「ベイビー・ブローカー」を超えるようなものも正直たくさんある。是枝氏がIUのファンになったというIU主演の「ディア・ミスター(私のおじさん)」なんて、ある意味、「ベイビー・ブローカー」の上位互換みたいなドラマではないか? IUの”やさぐれた”演技はあのドラマで堪能できたので、この映画ではもう少し違った側面も見たかった気がする。

見た直後なのでいろいろ難癖をつけるようなことを書いてしまったが、現代日本を代表する監督が、IUをはじめ韓国の魅力的な俳優を使って国際的な作品を作ってくれたことには感謝しているし、これからも期待しています。

 

じつは、今日はもう一本別の映画も見たのだが、その感想はまた改めて。