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ブライアン・ウィルソン自伝

ブライアン・ウィルソン自伝」の原書をkindleで購入し、邦訳書も読んでいる。

マイケル・ジャクソン「ムーンウォーク」マーヴィン・ゲイの伝記のときにも書いたように、洋楽ミュージシャンの伝記のたぐいには邦訳に問題がある場合が多く、原書に照らすと、さまざまな誤訳や、時には正反対の意味になっていることもあって、信用ならないという思いがある。ビートルズの歌詞ジム・モリソンの詩についても然り。

この「ブライアン・ウィルソン自伝」については、Amazonのレビューを読んだら、翻訳に問題ありとするレビューがあったので、期待はしていなかった、というより、トンデモ翻訳になってるのを秘かに期待していたのだが、そんなに悪くない。細かい誤訳や誤植は目立つレベルで存在するけれど(いちいち指摘しないが)、全体的な翻訳は、語りかけるような文体も含めて、なかなかよいと思う。

DU BOOKSはジャズについてもいい本を何冊も出しているので、翻訳もしっかりしているという印象。ハービー・ハンコックの自伝もよかった。

タイトルは、「ブライアン・ウィルソン自伝」より「回想」の方がよかったのではないか。この本は幼いころから順番に語っていくスタイルではなく、現在の話から過去の話へと、あっちこっちに話が飛ぶので、時系列に人生を語る「自伝」を期待した読者は期待外れに思うかもしれない。

ファンなら周知の事実かもしれないが、ぼくにとっては興味深いことがたくさん書かれていた。

ブライアン・ウィルソンは若い頃から右耳がきこえなかった(子供の頃に遊んでいて鉛のパイプで頭を殴られたため)

・ジョージ・マーチンによるGod Only Knowsのミックスが原曲よりいいと思っている

・デビッド・リー・ロスのCalifornia Girlsのカバーは完璧だと思っている(同意!)

Let Him Run Wildのリード・ボーカルは大失敗だと思っている

ロネッツBe My Babyが生涯最大の衝撃

フィル・スペクターから「お前には俺を超えることは出来ない」と言われた言葉が強迫観念のようになり長年怯えていた

・クラシックの時代に生まれていたらベートーベンやモーツアルトではなくバッハのような作曲家になったと思っている

Girl Don't Tell Meジョン・レノンのことを思い浮かべながら書いた(別の個所では、曲がまるごと頭に浮かんできて後で歌詞を紙切れに書き留めたと言っている)

・「ペット・サウンズ」が出た後、ジョン・レノンから電話がきて、自分がどれほどこのアルバムが好きかを熱心に語ってくれた

・ポールがぜひブライアンに聴いてもらいたいといってShe's Leaving Homeのテープをかけたとき当時の妻マリリンが感動して泣いた

・その30年後ポールがブライアンのコンサートの楽屋を訪ねて、You Still Believe In Meのイントロについて質問があるといい、二人でハーモニーをつけて歌った

・ポールとレコーディングしたとき、彼の歌がフラットするのを再三指摘した(ポールが不機嫌になったとは言っていないが雰囲気を想像したら寒くなる)

エリック・クラプトンとレコーディングしたとき、「きみのベストがこの演奏なら、このテイクを使うしかないな」と言ったら、次のテイクでさらにいい演奏をした

イーグルスドン・ヘンリーからサインを頼まれて、彼の「ペット・サウンズ」のジャケットに「グレイトな曲をたくさん作ってくれてありがとう」と書いた後で、「グレイトな」を消して「良い(good)曲」に書き換えた(ドン・ヘンリーは笑っていたと書いているがちょっと寒くなる)

ストーンズの「Between the Buttons」に入っているMy Obsessionがお気に入り

Add Some Music To Your Dayストーンズへのオマージュ(Marcellaも)

Good Vibrationsの制作には7か月かかり、いろんなスタジオを使い、5万ドル以上かかった(当時のキャデラックデビル1台が5000ドル)

Love and MercyバカラックWhat the World Needs Now Is Loveからできた

This Whole World のカールのリード・ヴォーカルはお気に入り。15 Big OnesのPalisades Park

Four FreshmenLittle Girl Blue がどんなカバーより最高

Little Girl I Once Knew は Canifornia Girls の続編で、最高傑作の一つだが、まるでヒットしなかった。イントロの最初の二音は、中国の音階

・2011年に出た「Smiles Sessions」よりも2004年に自分が出した「Smile」の方がいい

などなど。

ブライアン・ウィルソンの口から、ローリング・ストーンズやらマイケル・ジャクソンやらボブ・ディランやらボノやらニール・ヤングの名前が出てくると新鮮に感じる。接点があるのは当たり前なのに、ブライアン・ウィルソンだけは孤高のイメージがあって他のミュージシャンたちと交わっている様子がイメージできない。

唯一ビートルズポール・マッカートニー)だけは、仲が良かったのは理解できる。

この二人がいなかったら、僕たちの生活はどんなに味気ないものになっていただろうか。ビートルズビーチボーイズのいない世界など想像したくもない。

60年代に彼らの作った曲には、本人たちにも理解できない魔法が含まれている。それ以後の音楽からは永久に失われてしまったものだ。

今の僕たちには、Caroline Noの歌詞のように、失われた美しいものを懐かしみ嘆くことしかできぬ――

 

Where did your long hair go
Where is the girl I used to know
How could you lose that happy glow
Oh, Caroline no

きみの長い髪はどこへ行ってしまったの

ぼくの知っていた少女はどこへ行ってしまったの

あの幸福な輝きをきみはどうやって失ってしまったの

ああキャロライン、あんまりだよ

 

Who took that look away
I remember how you used to say
You'd never change, but that's not true
Oh, Caroline you

あの姿かたちを奪ってしまったのは誰なの

きみは決して変わらないと言ったけど

それは本当じゃなかった

ああキャロライン、きみって人は

 

Break my heart
I want to go and cry
It's so sad to watch a sweet thing die
Oh, Caroline why

ぼくの心を粉々にして

ぼくはどこかに行ってしまいたいそして泣きたい

すてきなものが死んでしまうのを見るのはつらい

ああキャロライン、どうして

 

Could I ever find in you again
Things that made me love you so much then
Could we ever bring 'em back once they have gone
Oh, Caroline no……

ぼくは再び見つけられるだろうか

きみをあんなに愛しいと思わせたものを

それがなくなってしまったら取り戻せるものだろうか

ああキャロライン、だめだよ