War Is Over

 if you want it

夢洲(2)

それから夢洲は堰を切ったように昔の仕事のことを話しだした。いかに店の人気者でナンバーワンだったかを嬉しそうに語った。

「前の仕事では〈同伴の女王〉と呼ばれてました」

といった。

夢洲が日々物語る断片をつなぎ合わせると、彼女のこれまでの人生が浮かび上がってきた。

母方の祖父は、郷土の美術史の本に名前が載っているような画家だった。父親は夢洲が二十歳のときに肺がんで亡くなった。母親は書家で、夢洲も母親の勧めで書道の専門学校に通ったが、ひと月で辞めてしまった。その前に大学も一年で中退していた。上野のキャバレーで働くようになり、やがて横浜の店に移って、そこでナンバーワンになった。店ではほかのキャストについた客を叱って土下座させていた。

別れた夫は中学時代の知り合いで、彼女の方から交際を申し込んだ(“逆ナン”した)のだといった。交際中も何人もの男との関係ができ、その度に殴られ、いちどは全身に青痣が出来て交番に駆け込んだが相手にされなかったという。家に帰ると、父親が相手の男の家に怒鳴りこもうとするのを、母親がこの子にも悪いところがあったに違いない、と止めたことを悔しそうに語った。

水商売をしていたことについては、大体予想はついていたので大して気にしなかったが、よくないと思ったのは、その数日後に、さらに重大なプライベートの事情を打ち明けられたときだった。

そのとき初めて、このまま雇っていて大丈夫だろうか、辞めさせた方がいいのではないか、と思い、帰り際に、そういう重要なことを黙っていたのはよくない、と厳しめの口調で注意した。
 
その日の夜に夢洲からメールがあった。

なかなか言えず申し訳なかったです。1つ確認したいのですが、もし××××××××だとしたら、事務所で働くことはやはりNGなのでしょうか?

これに対して、ひどく長い返信を書いた。

夢洲さん
今日はありがとうございました。
言いにくい話を勇気をもって言ってくれたことに感謝しています。
一般に×××××××××から働けないということはないでしょうし、少なくとも僕は×××××××であるという理由だけで辞めていただくことはしません。
働いてもらうのが難しくなるのは、僕と夢洲さんの間で信頼関係が壊れたときです。
正直に言いますが、夢洲さんが応募してくれて面接をした時から、履歴書を見たりサイトの履歴を見て、何か「わけあり」な人だなという予感はありました。
しかしそのことを敢えて問い質すよりも、実際の仕事ぶりを見て信頼できる人かどうかを見ようと思いました。
2カ月間、夢洲さんの仕事ぶりをみて、仕事への真剣さとやる気が伝わってきたので、問題ない、というより僕にはもったいないくらい本当にいい人に来てもらってよかった、これからもずっと一緒に仕事したいと思いました。
ただ、今日の話は僕の予想を超えていたので、驚きました。が、夢洲さん個人には罪のないことだし、むしろ小さなお子さんを抱えて大変な思いをされていたことを知り同情の気持の方が勝りました。
同時にもっと早くちゃんと話を聞いてあげられなかったことを反省しました。
もしかしたら他にも言いにくいことがあるのかもしれないと思ったので、夕方、改めて尋ねました。
(中略)
しかしそのことを理由に辞めてもらおうとは思いませんし、僕が夢洲さんの覚悟や決意に口をはさむ権利はありません。
率直に書きすぎたかもしれませんね。もし不快な思いをされたら申し訳ありません。

1時間くらい後に返信があった。

御丁寧なメッセージ、感謝致します。
本当にありがとうございます。
私自身、今、お仕事が凄く楽しくて仕方ない状況で、、、
もっと頑張って、毎日出勤出来たらなぁと考えていました。
ですが、やはり××××××には変わりない事で…
私自身、結婚して妻だという認識が凄く凄く低いのが現状でした。
(中略)
私が近くにいる環境での出来事ではなかった為、結局は、他人事みたいにしか思えなかったというか考えたくないから、考えないようにしてたというか…
簡単に言ったら、逃げてって事になるかなと思います。
明日、1日、私なりに考えてみます。
これからの事を含めて、、、
本当に申し訳ないです。
ごめんなさい。

この返信を読んで、「もしかしたら辞めるのではないか」「辞めてほしくない」という気持ちが急速に沸き上がり、慌ててフォローする内容のメールを送った。

後になって考えれば、すべて夢洲の掌で転がされていたのだという気がする。