War Is Over

 if you want it

夢洲(3)

夢洲は感心するほど仕事熱心であった。

水商売を辞めてからは顧客からプレゼントされたブランド物の服や時計や宝石などをネットで転売して暮らしていたといい、事務仕事に憧れのようなものがあったという。

細かな事務処理能力については知識と経験の不足は否めなかったものの、やる気と情熱で十分にカバーできていた。

書家の娘だけあって字が上手く、宛名書きなどには重宝した。顧客との打ち合わせに(もちろん相手の許可をとって)同席することもあり、連絡調整などもマメにこなすため受けも良かった。

会話においても、相手の気を逸らさない術を身に着けていた。好奇心旺盛で話題も豊富なので、話をしていると時を忘れた。よくこんな人が来てくれたものだ、とほとんど夢心地になる場面も多々あった。

こっちも調子に乗ってあちこち出張に同行して得意げになっていた。

 

だが、そんな夢洲には、致命的な欠点がひとつあった。

遅刻と、(無断)欠勤である。

「今起きました。申し訳ないです」

と出社時刻にメールしてくることが週に一、二度あった。

遅刻ならまだよかったが、

「体調が悪いので休みます」

と朝メールが来て、夢洲のいない事務所で過ごす一日は地獄のように虚しかった。

そういうときには、鬱屈した怒りに任せてパソコンに夢洲への悪態を打ち込んだ。険悪な内容のメールを送るときもあった。

夢洲はいつもメールの返信に、

「少なからず、申し訳ないです」

と書いてきた。その言葉が余計に苛々を募らせた。

しかし、翌朝に夢洲が事務所に姿を見せると、その顔を見た瞬間嬉しくなって、昨日の鬱屈した怒りの感情は一瞬にして霧散し、話したくて話せなかった昨日の出来事の報告を始めるのだった。

それの繰り返しだった。

 

ある朝、来るなり、離婚届を机に広げて、

「今日、出しに行きたいので、証人欄に署名、お願いしていいですか」

といった。夫の欄にはもう署名があった。

別居中ではあったが、まだ正式には離婚していなかったのだ。

こっちは夢洲のプライベートには一切関知しないと決めていたが、他に頼む人がいないと言われ仕方なしに署名した。

夫とは別れた後もいろいろ揉め事があり、警察を呼んだりもしたらしい。

後日、元夫の母親から事務所に電話が来たが、何のことかさっぱり分からないし、事務員のプライベートな事情には関知していないと話すと、FAXが送られてきた。

それによると、元夫が離婚後もTくん(二人の間の息子)の食生活を心配して夢洲と息子の住むマンションへ泊まりに行っているが、先日Tくんが友達の家へお泊りに行っている時も泊っているのを聞いてびっくりした、離婚しているのに、もしも子供が出来て、今度は慰謝料出せなんて言われたらどう対処したら良いのかお聞きしたい、と書かれていた。

またFAXによれば夢洲は二十歳頃にヤクザの人と横浜に住んでいて、その男から逃げるのにお人好しの元夫に突然電話してきて、荷物を運ばせ、それから二人の付き合いが始まってしまったのだが、二十二の頃から東京等でホステスしてるので口がうまくて、陽一は離婚後も家族三人の生活のためと言われて二十万円も取られ、どうも態度がおかしいので、返してほしいと言いあっていたら貴恵さん(夢洲)が警察を呼んで大さわぎだった。そちらの事務所で働いていると聞いているが、貴恵さんが朝起きれないので元夫の携帯にこちらから電話が入り、貴恵さんに伝えていると聞いていたので、今回身内的な感覚でご相談させて頂こうとご相談させて頂きました、という。

夢洲はこれを読んで、

「ウソばっかり。ヤクザと付き合ったことなんかないし・・・ところで先生は夫と携帯で連絡取り合ってるんですか?」

といった。

ウソばっかりといいつつそんなあり得ないことを確認してくるのには呆れたが、

「携帯番号を知りもしないのに連絡を取り合ったわけがないじゃないか。何から何まで嘘なんだよ。さっきの電話もいってることがよく分からなかったし。こういう人は相手にしちゃだめだよ。相手していると自分がおかしくなるよ」

と答えた。

だが相手にしないのは現実的に無理だろうな、と内心で思った。

事実、このFAXの後にも年末年始は元夫と家族三人で御殿場にスキーに出かけ元夫の別荘に泊まったりしていたらしく、傍からはよく分からない関係であった。