War Is Over

 if you want it

夢洲(5)

事務所に夢洲宛ての手紙が何度か届いたことがある。どちらも、文通してほしい、と切実な内容が綴られていた。もちろん丁重にお断りの手紙を書いた。夢洲が巻紙を使って筆で書いた。

世の中には小田原ドラゴンの漫画のような女日照りで身悶えするしかない男たちがいる一方で、黙っていても(拒絶しても)男が群がってくる女たちがいて、その両者の生きる世界には深い断絶があるということを実感したのは夢洲を知ってからである(ちなみに黙っていても女が群がってくる男というのは話に聴くのみでまだ見たことがない)。

夢洲マッチングアプリを使って再婚相手を探していた。プライベートには一切関知しないことにしていたが、雑談しているとどうしてもそういう話題は避けられなかった。

こっちはそのたぐいのアプリについては何も知らないのでただ話を聞いているしかないのだが、夢洲は顔写真を載せると半日で十人以上からメッセージが届き、その中から条件のよさそうなのに返事を書いていた。

中に大病院の医師がいて、自分の載った雑誌の記事やらホームページやらを送ってきた。色々と照らし合わせると、経歴に偽りはないようだった。日本で有数の名医として各方面で紹介されていた。ただ一つ問題は、半年前に別れたはずの妻が、Facebook上ではまだ配偶者と記載されていることだった。もちろん彼が提供した様々な情報の中に彼のFacebookは含まれていなかった。夢洲が調べたのである。

海外出張中の彼に夢洲がLINEでこの点を指摘すると、それまでの熱心なやりとりが嘘のようにパッタリ返事が来なくなった。

また別の男性は、夢洲がペットショップで衝動買いしたトイプードルを預かる羽目になった。当時住んでいた部屋がペット禁止で、管理人に苦情が行き、飼うのをやめるか退去するかどっちかにしてほしい、と警告を受けた。苦肉の策として、マッチングアプリで知り合った男性に転居先が決まるまで預かってもらうことになったのである。

男性側の好意に応えるべく、夢洲は彼の家にペットを取りに行き、一泊したものの、一晩中トイプードルを膝にのせて抱っこしたままで、彼からの誘いはトボケ倒したという。そのやりとりを面白おかしく聞かせる夢洲の話術はプロ並みであった。

 

そんな話で盛り上がっているときは楽しかったが、楽しい分、いきなり休まれたりするときのダメージは大きかった。

度重なる遅刻と欠勤にとうとう我慢ができなくなり、これは病気かもしれないから、病院に行って診断書をもらってきてほしいといった。

これを書いて医者に見せるように、といって、彼女の息子と同じ病気のチェックリストを渡した。

その夜、

近くの病院に行ってきました

とメールが来て、すぐに診断が出て薬を処方されたといってきた。

夢洲は、その先生がたいして診察もせずに病名を即決したことや簡単に薬を出してくれたことには感謝していたが、「なんとなく薄気味悪い」といい、ずっと「うすきみ先生」と呼んでいた。

薬を飲むと人格が変わる、というようなことがネットに書いてあったので、夢洲の快活でユニークなところが失われるのではないか、とも心配したが、若干おとなしくなった気はするものの、それほどでもなかった。

より深刻な問題は、薬を飲むと夢洲の食欲がなくなってしまうことであった。何も食べたくない、食べ物をみるだけで気分が悪くなる、といって、一緒にランチに行きたがらなくなった。

こっちは夢洲と毎日外で食べるランチが一日の最大の愉しみになっていたから、「身体のために何か食べなくちゃだめだ」と説得し、引っ張り出す儀式のようなのが日課になっていった。

それでもどうしても無理、というときには、妥協して夢洲が唯一食べられるという喜多方ラーメンに入った。

だんだん喜多方に行く日が増えていった。