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Behind No Mask

A級順位戦永瀬拓矢VS佐藤天彦の対局で、佐藤がマスクを長時間外していたことを理由に反則負けとされたことが大きなニュースになった。

反則負けになった佐藤天彦は、規定に則った異議申立て手続きを行う意向を示しているという。

「ルールなので仕方がない」「マスクを外していたほうが悪い」という声もある一方、棋士の中からは「これはおかしい」と違和感を表明する声も挙がっている。

この騒ぎにどうも既視感を感じるのは、5年前の未だ記憶に新しい「ソフト不正事件」で将棋連盟の対応が非難の的になった出来事が頭を過るからだろう。

あのときも、不正防止のための規定はあったのだが、その運用の恣意性が問題になった。規定(法)の存在は、その正しい運用(執行)とセットでなければならない。

今回の規定の運用に問題がなかったとはいえない。

正当な理由なしに長時間マスクを外している棋士は反則負けとする、という規定があったとしても、その結果の重大性からして、立会人がマスクを着けるよう再三求めたにもかかわらず従わないなど、「正当な理由」の有無については慎重な解釈が求められる。

今回の場合、対局相手である永瀬が「反則負けではないか」と「関係者」に指摘したが、立会人が会館内にいなかったため、鈴木大介常務理事が急きょ駆け付け、佐藤康光会長らと協議の結果、反則負けが決まったという。

佐藤天彦は「以前は(外していても)マスク着用の注意を受けていたケースもあった。今回は注意も受けていない」と反論したが、判定は覆らなかったと報じられている。

「反則負け」という棋士にとって最大のペナルティーを科す以上、その判断に恣意的な要素が入り込んではならない。過去にマスクを外して対局し、反則負けにならなかった事例があるとしたら、それも問題になる。

今回の判断を下したのが規定の定める「立会人」ではなく、連盟の理事と会長であったという点はどうなのか。現会長の佐藤康光は、A級順位戦の対局者でもあり、その判断に客観的中立性が担保できる立場にはない。

関係者の誰にも悪意がないことは確かだと思えるだけに、将棋連盟の抱える本質的問題の一端が露になった事件だったといえる。