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サン・ラーは教祖(グル)か?

サン・ラーの伝記にも名前が出てくるジーン・トゥーマー(Jean Toomer 1894-1967)というアメリカの黒人作家は、グルジア出身のオカルティスト、神秘思想家で、東洋の〈グルイズム〉の元祖のような存在であるG.I.グルジェフ(1866-1949)に傾倒した時期があった。

サン・ラーの伝記など読む限り、サン・ラーの振る舞いはかなりグルジェフの影響を受けているように思える。逆に言えば、グルジェフがミュージシャンだったら、サン・ラーのようになったのではないかと思う(実際グルジェフは音楽演奏も行い、晩年のハモンドオルガンの演奏を録音したものが残っている)。

学生のころ、スピリチュアルにハマっていた時期、当時「めるくまーる社」という出版社から出ていたグルジェフの本をめったやたらに読んでいた。

革命の激動に揺れるロシアをかいくぐり、ぎりぎりのところで生きのびてヨーロッパに渡り、その間も絶えず弟子たちに精神的訓練を施すグルジェフの姿は、当時の自分にとって理想的人間の体現のように思えた。

グルジェフの生まれた年には諸説あって、スターリンと地元の小学校で同級生だったとかいう話もあるし(ウィトゲンシュタインヒトラーと同級生だったのは確からしいが)、グルジェフの叔母さんの家に学生スターリンが下宿していて家賃を踏み倒して出て行ったという話もある。後年に至ってもスターリングルジェフの行動を死ぬまで注視していた節がある。

ジーン・トゥーマーは、グルジェフと活動しているときに、何度も金を要求されて困ったというエピソードを本に書いている。トゥーマーはそれをグルジェフによる精神的修練法の一つと受け取っていたようだが、後に悪辣な<グル>たち(ラジニーシとか)がそのやり方を真似て弟子たちから金銭的搾取を行った事実を考えあわせれば、<教え>の名のもとに弟子たちを搾取したグルジェフの罪は重いと思う。同じような話はチベットのミラレパなどの師弟関係にもみられる。グルジェフはそれをパクったのだろう。いずれにせよ、ろくでもないことである。

サン・ラーの経済感覚も独特だったようだ。彼は金儲けのために音楽を利用することを憎んでいた。大所帯の家族のようにバンドのメンバーと共同生活し、父のように振舞った(性的不能者であった彼は共同体に女性を入れることを承知しなかったが、後にパフォーマンスの質を向上させるという理由からジューン・タイソンがバンドのメンバーに加わることを認めた)。バンドのメンバーは演奏の仕事がないときはいつも金欠で、自分たちで駄菓子屋を経営したりしながら日銭を稼いでいた。あとは延々と続くリハーサルをひたすらやっていた。

1時間のステージのために10時間以上、ときには100時間ものリハーサルをした。リハーサルと言っても、きっちり決められたステージの段取りを覚え込むためのものでは全然なく、むしろ演奏のたびにまったく違うことをやるよう求められた。あるメンバーにサン・ラーはこう言った。「君ができないことをするんだ。そうすれば、できないことは無限だということを学ぶことができる」

リハーサルは、サン・ラーの講話から始まるのが常だった。今の世界の状況について、宇宙哲学について、音楽による救済の必要性についていつまでも語り続けた。

しかし、メンバーが彼の言うことを信じるよう求めることは決してなかった。話すことによりその場の雰囲気を高めているような効果があった。

サン・ラーのツアーはいつも大所帯だったが、しばしば旅費を持たずに出発した。滞在費は会場で手売りしたレコードやポスターの売り上げと、ライブを録音した音源の販売を許可することで賄っていた。若い頃から、演奏の機会があればどこにでも出かけていき、ギャラを踏み倒されることもしばしばだった。

彼は自分にも周囲にも倹約を求めず、むしろ贅沢をさせた。いったいそれだけの金がどこから入って来るのか不思議がる人もいた。とはいえ一見豪華で贅沢に見えるステージ衣装や装飾もほとんどが手作りで実際にはそんなにお金はかかっていなかった。公園で演奏していたらしばしばホームレスの集団と間違われた。

 

ジーン・トゥーマーは、グルジェフの回想録にこんな風に書いている。

……グルジェフは過去数ヶ月間にしでかした彼の一見恥ずべき行いについて非常に興味深いことを言った。彼の言葉を要約すると、次のようになる。彼が(とりわけ彼の肉体が)復活するためには、苦しむことが必要だった。苦しむためには、彼は人々に対して、苦しみを引き起こすようなこと、そしてそれを思い出すだけで彼を苦しませるようなことをする必要があった。なんと驚くべき考え方であろうか!

もしそれが本当ならば、過去数ヶ月の間に、彼が次から次へとひどくなる一方のスキャンダルやトラブルを生み出し続けたことに完全な説明がつく。もっとも、それはあの日々に苦しんだり喜んだり途方もない体験をした周囲の人々のことは考慮していないし、彼が後から考えた理屈に過ぎなかったのかもしれない。

だが、この意図的苦悩についての説明が正しいとすれば、彼の行動はまったく理解できるものとなり、今夕食の席に着いているこのきわめて健全で物静かな人物が、過去数ヶ月間ほとんど狂人のように振る舞っていたことも説明できる。さらに、レイトンが述べたように、「最悪の時期」にもグルジェフがレイトンを以前と全く同じように扱い、決して誤って導くことがなかったことへの説明もつく。

この夕食の間に私は、グルジェフへのなつかしい感情がよみがえってくるのを感じていた。アルコールの勢いもあって潜在意識が表に出たのか、私は、感情のほとばしりと共に、グルジェフに再び忠誠を誓った。

ある種のカリスマを持つ人物は、どんなに不合理で滅茶苦茶なことをやっても後付けの理屈でそれを正当化し、信奉者に忠誠を誓わせることができる。それは典型的な共依存関係と呼べるのかもしれない。

サン・ラーもまたそういうカリスマを備えた人間だったようだ。しかし繰り返すが、彼は自らを教祖やグルの位置に置いたことはなかったし、一人のミュージシャンしての人生を全うしたにすぎない。

それゆえに彼の生涯は尊い