INSTANT KARMA

We All Shine On

20221224

ちょっと界隈で話題になっているようなので、文藝春秋の最新号に掲載されている鈴木おさむ「20160118」という文章を読んだ。SMAPが急遽生放送で「謝罪」した番組の放映に至る顛末が記されているという。

読んだ感想は、「なんじゃこりゃ」というもので、完全に期待を下回る内容であった。

著者自ら文中に「これは小説である」と断り書きを入れているが、自分から見ればこれは〈小説〉と呼べる代物ではなく、当時のSMAP解散騒動をリアルタイムで知っている人間でなければ何のことかまるで分らない。要は作品としての普遍性がまるっと欠如している。その一方で「SMAP」「ジャニーズ事務所」「メリー喜多川」といった重要な固有名詞がすべてボカされているため、ノンフィクション作品としての客観的価値も持たない。

この著者が人間的に誠実だなどとも思わない。要するに自己憐憫と罪悪感を処理するための個人的ナルシシズムを動機に書かれたマスターベーションの域を出ておらず、著者以外にとっては何の意味も持たない、このブログと大差ないレベルの文章である。

読後感は、この著者が書いた漫才コンビの交換日記をめぐる「感動的風な」小説を読んだ時の気持ち悪さにも通じるものがある。ナンシー関が生きていたらたぶん同意してくれるはず。知らんけど。

ボロクソに書いたが、ジャニーズ事務所を擁護するつもりは毛頭ないし、メリー喜多川の行為はくだらんと思う。ただし、この「小説」にはこうなるに至った経緯や背後関係がまったく書かれていないので、何が善で何が悪なのか判断のしようがない。そもそもジャニーズ事務所にはまったく何の関心もないので終始どうでもよい。

時間の無駄であった。

文藝春秋を読んだ図書館に置いてあったインド映画「Machines」(Rahul Jain監督)を借りて見た。

Amazonの内容紹介をそのまま転記。

超絶音響
工場労働
記録映画

厳しい現実、その響き―。

実物を見るのははばかられるものであっても、それを描いた絵を見るのは喜びをもたらすことができる。『人間機械』は、この古くてかつ新しいアリストテレスの芸術哲学を、映像によって実証するような作品に仕上がっている。
岡田温司(京都大学大学院教授/西洋美術史・思想史)

人と機械の関係をめぐる美しくも悲しい映像エッセイである本作は、躍動的でストイックなリズムと脈動するベースに貫かれている。
De Volksakrant

機械のスペクタクルと人間の痛みを見事に融合させた驚くべき作品。
Variety

不快で、美しい。
Inverse Docs

芸術的な視点と社会的観点が見事に調和した稀有な作品。
The Hollywood Reporter

今日、著しい経済成長を遂げているインド。
北西部グジャラート州にある巨大な繊維工場が本作の舞台である。
工場内部に入っていくカメラが捉えるのは、劣悪な環境で働く労働者たちの姿。
中には幼い子供もいる。あからさまな労働力の搾取。グローバル経済の下で歴然と進行する労使の不平等。
出稼ぎ工場労働者が囚われる過酷な労働状況の告発を主題とする一方で、流麗なカメラワークによる画面はまるで宗教絵画のような「美しさ」を漂わせている。
そして、画面を凌駕する圧倒的なまでの音響。
作業機器から出る音の反復とその独特のうねりには、高揚感すら生まれるだろう
高精細・高解像度で記録され構築されたオーディオ・ヴィジュアルは、嗅覚や皮膚感覚まで刺激するかのように見る者の体感に訴える。
1895年、リュミエール兄弟が『工場の出口』を発表して以来、映画は工場を捉えてきた。
絶えず「労働」と「人間」を巡って来たともいえる映画の歴史に、本作はどのように位置づけられるのか?
「記録」と「芸術」 の境界を探求する、新鋭ラーフル・ジャイン監督による問題作。