INSTANT KARMA

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サカモト・キクチ

2011年1月1日にNHK-FMで放送された坂本龍一ニューイヤー・スペシャル ~ 5人の音楽家達との即興演奏」ようつべに上がっていたので、菊地成孔との対話部分を備忘録として起こしておく。

 

坂本「えっと・・・あけましておめでとうございます(笑)」

菊地「おめでとうございます(笑)」

坂本「今回のテーマは、みんなと即興をやってみようということで。僕、今まであんまり即興やってこなかったんですけど、ちょっとやってみようかなと思って。今、とりあえず何も決めないやつをやってみましたけど。どうでした?(笑)しょっちゅうやってるんでしょ、こういうことは?」

菊地「やってますね。」

坂本「何も決めないのもやってるだろうし、曲があるのも・・・」

菊地「はい。えーと、そうですね、あまりうまくいかなかったですね(笑)僕的には」

坂本「難しいですかね、やっぱり」

菊地「うーんと、いや、でも、初めて坂本さんと二人で即興やって、あんまりうまくいかなかったっていうのは、とっても素敵なことですね(笑)」

坂本「そうですね。うまくいっちゃうっていうのも、どういうことかなって・・・」

菊地「今日来てる連中は全員知ってるんですよ、僕(註:大友良英大谷能生ASA-CHANG)。下手すると、全員知ってるの僕だけなんですよね。彼らとは即興よくやるんですけど」

坂本「僕はほとんど初めてです、全員と」

菊地「でも、おそらく、推測ですけど、今日来てる連中の中で、僕が一番坂本さんの音楽を聴いてると思いますよ」

坂本「本当?」

菊地「はい。一番聴いてると思いますよ。楽譜上げたりとかしてるから」

坂本「そうですか・・・もともと子供のときに音楽好きになったのは何から入ったんですか?」

菊地「僕んち、家の両脇が映画館だったんですよ。家が歓楽街の真ん中だったんで。で、泣くと、店で泣くとやばいから、親が映画館に放り込むんです。そうするとそこで、映画音楽がデカいスピーカーで、子供にはアクセスできない現代音楽とかがかかっていて。それが原体験ですね」

坂本「じゃあ林光とかが耳に入ってたんだ。」

菊地「あとジャズとか、武満徹とか。」

坂本「それで自覚的に(音楽を)勉強しようと思い立ったのはいくつくらいなんですか?」

菊地「大学滑っちゃったんで、何か手に職つけないといけないと。で、口からでまかせで音楽学校入ってスタジオミュージシャンになりますって言って。音楽学校に行ったんですよね。そこでいわゆる商業音楽理論、バークリーメソッドを習って。」

坂本「これ全然インタビュー番組じゃないんですけど、あまり今までちゃんとお話しする機会がなかったもので。湯山玲子さんとか、お互いブリッジ役の人と親しくしてたりね。まあ、これを機によろしく・・・」

菊地「とんでもないです。こちらこそよろしくお願いします」

坂本「菊地さんていうと、演奏はもちろんですけど、文章も評価されてるじゃないですか」

菊地「いえいえ、全然そんなことないですよ(笑)。物好きがいるだけで・・・」

坂本「見てると、勉強意欲がすごいなと思って」

菊地「いえいえ、勉強意欲は全然ないです(笑)遊んでばっかりですね」

坂本「それでも余裕があるところはいいですね。そういえばこの間、武満さんの追悼があったじゃないですか」

菊地「はい、生誕80年で。オーチャードホールで、大友(良英)と一緒にやったんですけど。」

坂本「映画音楽?それとも・・・」

菊地「大友は全部映画音楽だったんですけど、僕は『コロナ』弾きましたよ。コロナをピアニストと二人で弾いて」

坂本「テープとか使わないで?」

菊地「コロナは図形楽譜三枚選んで、三枚分を二人で弾きました。あと一曲は、クロストークっていって、うちのバンドにバンドネオンいるんですよ。そのお友達が来て、ツインバンドネオンで、俺がテープを。二手のバンドネオンと、テープのためのクロストークなんで。」

坂本「テープを作ったの?」

菊地「オリジナルテープをCD-Rに焼いて、CDJをポチっと押しただけなんで、まあインチキテープなんですけど(笑)」

坂本「なるほど、へえー、面白い」

菊地「最後に武満さんが編曲した『枯葉』を、93年に武満さんが委嘱されて作ったのを、弦楽器四人で。」

坂本「そうか・・・僕は最初の出会いは、武満批判のビラを配りにいったら、本人が出てきちゃって」

菊地「よく存じ上げてますよ(笑)」

坂本「立ち話みたいな(笑)気まずいような、嬉しいような」

菊地「熱い季節ですよね」

坂本「熱かったなあ(笑)。本当にいい人でね・・・お付き合いはあったんですか?」

菊地「まったくないです」

坂本「それは残念だね」

菊地「いえ、坂本さんと会えたからいいですよ」

坂本「そうか・・・じゃあ、またDUOやりましょうね」

菊地「ぜひぜひ」

坂本「今回はうまくいかなかったので」

菊地「僕も曲を持ってきて、坂本さんも持ってきて、どっちもやらなくて、完全即興やって、あんまりうまくいかなかった(笑)」

坂本「けっこう面白かったんじゃないかなとは思うけど・・・」

菊地「まあ聴かないとわかんないですけど(笑)」

坂本「じゃあ、菊地さんの曲を聴きましょう。これは何でしょう?」

菊地「私のバンドで、ペペ・トルメント・アスカラール、「色男の甘い拷問」ていうバンドですけど、オルケスタで、『ニューヨーク・ヘルソニック・バレエ』っていうアルバムを出しまして。そのタイトルチューンを」

坂本「これは何人くらいなの?」

菊地「11人です」

坂本「そんなに。色々やってるじゃない、バンドとかアンサンブルとか、色んな組み合わせで色々やってらっしゃって、あの、財政的には大丈夫なんですか?(笑)」

菊地「財政がね・・・もうダメですね(笑)」

坂本「(笑)ほんとはその話もしたかったんだけど、今、音楽で食えないじゃないですか。CDなんてほとんど誰も買わないし。これからどうなっていくのか・・・普通にやってたら食えないですよね。そういう話も今度しましょうか」

菊地「坂本さんは食えるじゃないですか!」

坂本「いえいえ、ダメですよ、もう」

菊地「そんなはずないですよ!(笑)もう、正月から何言ってんですか(笑)」

坂本「(笑)じゃあ、聴きましょう。どうもありがとうございました」

菊地成孔のブログより)

録音後のトークも収録されていますが、裏話を少々。最初「基本的には完全即興だけれども、やりたい曲があったら持ってくるように」というオファーでしたので、ワタシは坂本さんの「トリビュート・トゥ・NJP」の楽譜を持って行ったのですが、これが却下となり、今度は坂本さんが「ねえこれやらない?すごくゆっくり(うっとり笑い)」と仰りながら「ブルー・イン・グリーン」の楽譜を出され、マジすか。と軽く引きながらも(笑)それで録音したのですが、テイクが20分強と、番組収録時間を大幅に超過してしまったので、それでは何も考えず完全即興で。といって始めたセッションがオンエアされ(る筈)ます。坂本さんのピアノはタッチから和声まで凄まじく美しく、もう既に、20世紀最後の古典のひとつとして勘定して良いと思いました。