INSTANT KARMA

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envieonment and psychology


「今年が始まって僅か17日間しか経っていないことが信じられない」と菊地成孔が書いているが全くその通りだと感じる。年明けからプライベートでも色々なことがあったが、ジェフ・ベック高橋ユキヒロの立て続けの訃報にも心が揺れる。ロック世代の黄金期を担ったひとびとがもう七十代から八十代になっているのだから、われわれはこれからこうした訃報にますます頻繁に接することになるだろう。だがこの両者の場合は、少し早すぎた。

 

図書館でフロイト技法論集」(岩崎学術出版社ラカンフロイトの技法論/上・下を借りた。フロイト「転移性恋愛について」というエッセイ(小論)が面白い。フロイトの考察は机上の空論ではなく圧倒的に豊富な臨床経験に裏付けられているので説得力がある。彼自身が「転移性恋愛」に悩まされた様子がリアルに伝わってくる。

女性が愛を求めているのに、それを断ったり拒んだりするのは男性にとっては苦しい役回りである。神経症や抵抗があるにせよ、情熱を告白する気品のある女性には、比べるもののない魅力がある。誘惑をかたちづくるのは患者のむきだしの官能的欲望ではない。むしろそういったものは嫌悪感を引き起こし、それを自然な現象とみなそうとするなら、ありったけの寛容が必要になるだろう。おそらくむしろ、女性のより微妙で目的阻止的な願望こそが、甘美な体験のために技法と医師の任務を忘れさせる危険をもたらすのである。

他人の恋愛相談を受けている間に恋愛関係ができてしまうというのも一種の転移性恋愛の論理で説明がつくだろう。自己啓発セミナーも一種の転移を利用しているといえる。精神分析における転移とはさまざまな意味で異なるにせよ、ほとんどの人は心の底をあらいざらい晒した人間に対しては無防備になる。それをうまく利用して邪な欲望を満たそうとする人間も後を絶たない。

 

自己啓発の罠: AIに心を支配されないために』(マーク・クーケルバーク、青土社という本も読んだ。ここにもフロイトラカンが出てくる。もともと自己啓発に批判的な人が読むよりも、訳者があとがきで書いている通り、自己啓発に熱心な人が読むべき内容ではないかと思うが、そういう人は手に取らないだろうなあ、とも思った。利己的な「自我啓発」よりも人々を終わりのない自己啓発に駆り立てる今の強迫神経症的な社会を変えるためのアクティビズムが必要だという著者の主張には半分共感するが半分は懐疑的。

 

土曜日に「百万年書房」のサイトで注文した「人民の敵 外山恒一の半生」(藤原賢吾)がもう届いた。昨今の郵便事情の悪さから、明後日くらいになると思っていたのだが、感動的な早さ。

これから読むのが楽しみで仕方がない。