INSTANT KARMA

We All Shine On

85(35)

つげ義春の海は、彼自身が「断片的回想記」で書いているように幼少時の記憶と分かち難く結びついているのだが、しかし、それは単に「幼少時の記憶」と呼べるものなんかではなく記憶よりさらになまめかしく喚起的な、ある別の、わたしたちの魂の構造に関する秘密の海なのである。

金井恵美子

引用した金井恵美子の一文は、この本(つげ生誕85年【休筆35年】を祝い捧げられた偏愛エッセイ・評論集)で見つけたつげ義春についての珠玉の考察のうち最もインパクトの弱い部類に属するものである。

先日調布市の主催で「つげ義春展」が開かれたのを会期が終了する日に知って、無念にも見に行くことができなかった。大盛況で、連日長蛇の列ができていたという。

リアルタイムでつげの作品に接したことはないが、もう読み返す必要がないほど彼のいくつかの作品は自分の身に染み込んでいると思う。

柄にもなく私小説を読み始めたのも、つげ義春が「私小説しか読まない」とどこかに書いていたのに影響を受けたからだ。

50歳で作品を書かなくなり、それ以後は奥さんを亡くしたり色々大変だったようだが85歳になっても健在ということは、他のマンガ作家たちが命を削って作品を生み出し続けて燃え尽きてしまった人も多いことを考えると、賢明な生き方だったと言えるのかもしれないなと思った。。