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「佐久間宣行のずるい仕事術――僕はこうして会社で消耗せずにやりたいことをやってきた」(ダイヤモンド社という本を読んだ。

2022年4月に出た本で、たちまちベストセラーになっている。図書館で借りようとしたら、予約数がとんでもないことになっていたので、電子書籍で買って読んだ。

新刊書については、図書館での人気を見ると、「時の人」ぶりがよくわかる。

前著「できないことはやりません」は、2014年にテレビ東京の社員(プロデューサー)という立場で書いた本だが、この本はテレビ東京を退社してフリーになった立場で書かれている。

タイトルに「仕事術」という言葉が入っているだけあって、項目ごとに教訓めいた言葉がちりばめられた、いかにもダイヤモンド社が出しそうなサラリーマン向け自己啓発本のスタイルを取っている。

こうした本はまったく自分の好みからは遠く、まず手に取ることはないのだが、アイドルグループ「ラフ×ラフ」の生みの親であり、永松波留をオーディションで選んだ人物が書いた本なので、やむを得ず購入した。もっとも、前著が面白かったのも大きい。

いざ読んでみると、前著と重複するエピソードもあり、ほとんどは理想的な会社人間の在り方を説く指南書のような内容である。受験予備校の「効率的な勉強の仕方」のテキストを読んでいるような気分になる。

こういうのを読むたびに思うんだが、この本に書いてあるようなことがやれる人は、こういう本を読まなくてもやれる人なのだ。佐久間Pはサラリーマン向け自己啓発本など読まなくても自分の力でこういうことができる人なのだし、そういう人は独力で自分にとって最適なやり方を見つけることができる。だからこういう本を読む必要はない。逆に、自己啓発本をひたすら読み漁っている人は、読んでも実行できない人だ。できないから次から次へと読み続けるのだ。余りにも身も蓋もない言い方かもしれないが、これは真実である(自分は組織人としては落ちこぼれなのでよく分かるのだ)。

そういう意味では(どういう意味?)佐久間宣行は優秀な組織人である。これは皮肉とかではなく、人間的な魅力や誠実さも含めて言葉本来の意味で優秀な人物なのだと思う。こういう人はフリーランスになっても信用があるから困ることはない。

佐久間のような「人間力(〈・・りょく〉って嫌な言葉!)の高さ」を感じるもう一人の人物が吉田豪で、この二人の相性がよくて一緒に仕事するのはよくわかる。立場や仕事の場所は違っても、二人の生き方はよく似ている。

その共通点、その底にあるものを一言で言えば、〈怒り〉である。

前のブログ記事に、最近は条件反射的な怒りはあっても、状況全体に対する心の奥底からマグマのように沸々と沸き上がる怒りをもった表現が少ないと書いたが、この二人にはそれがある。

温和で一見平和主義的な態度の底にそれが見える。そういう人の表現だけが真にエキサイティングで見る値する。

 

Michael Jacksonが初めてTVでMoonwalkを披露するのを見たFred Astaireは、ステージを降りたマイケルに電話して、興奮しながらこう伝えた。

 "You're an angry dancer. I'm the same way. I used to do the same thing with my cane."

「きみのダンスは僕と同じだ。きみのダンスは怒りから来ている。僕は同じことを杖を使ってやったんだ」

 

そういえば僕がその小説に惚れている千葉雅也という作家が気になるツイートをしていた。それについては別に書きたい。