INSTANT KARMA

We All Shine On

電王戦が終わった感想

将棋のプロ棋士5人と、コンピューターの将棋ソフトが対戦するイベント、「電王戦」の最終局が東京で行われ、対局が始まって僅か49分でコンピューター側が負ける異例の展開となって幕を閉じた。

団体戦という形ではこれで最後ということで、今後何か別の企画があるのかどうかは現時点では不明。

今年は3回目で、プロ棋士が初めて3勝2敗で勝ち越す形で終わった。

一番印象に残っているのは、第1回目の最終局、三浦八段VS GPS将棋で、三浦八段が悪手らしい悪手がなかったのに完全に抑え込まれて完敗した将棋である。

これを見て、ソフトの実力がトッププロを超えたことを誰もが実感したと思う。

第2回の最終局でも、トッププロの屋敷九段が負けた。これはわりといい勝負に見えたが、終盤で人間の常識を超えた手が出て、ソフトの読みの恐ろしさを思い知らされる将棋だった。

今回の5番勝負では、人間が2連勝して幸先の良いスタートを切ったが、続く稲葉七段、村山七段は、力負けと言える内容だった。

そして最終局は、冒頭に書いた通り、阿久津八段がソフトの弱点を突く形で、ソフト側の序盤での投了となった。

今回の結果だけを見れば、プロ棋士とコンピューターソフトはいい勝負のようにも思える。

しかし、実際は、事前にソフトをプロ棋士側に貸出し、その期間は欠陥が見つかってもプログラムの修正ができないという、いわば「ハンデ戦」であった。このハンデをどのように見るか評価は色々あると思うが、結果的に今回はプロ側が事前研究でソフトの穴を見つけ、実戦でその局面に誘導できるかどうかで勝負が決まった気がする。

このような「事前貸出ルール」があってもなお人間が苦戦を強いられたということは、本当のガチ勝負ではもはや力の差は歴然としているといえるのではないか。

以前の記事でも書いたことがあるが、計算スピードにおいて人間が計算機に勝てないのは当たり前の話で、このこと自体は何ら驚くべきことではない。

しかし、プロ棋士代表として出場した棋士たちにとっては、「負けて当たり前」のような態度を取ることは許されず、そのプレッシャーは大変なものがあったと思う。これ以上棋士側に負担をかけるのはフェアではない。だから電王戦のようなガチ対決はもう終わりにしてよいと思う。

今後は、将棋界において人間とコンピューターがどうやって共存していくか、つまりプロ棋士がコンピューターをどう利用していくべきかを考えるべきだと思う。

最終局のソフト「AWAKE」の開発者は、将棋の発展のためにソフトを作りたいという意思が強く、プロ棋士がソフトの穴を突く戦術に出たことを記者会見の場で強く非難していた。

しかし、これは電王戦がガチ勝負である以上仕方のないことだ。「勝敗よりも面白さを優先する」などときれいごとを言っていられるような余裕はプロ側にはなかったし、相手の弱点を突く戦い方ははプロ棋士として当然のことで、なんら非難に値しない。

将棋の発展のためにソフトが貢献したいのであれば、その機会は設けられるべきだろう。

しかしその一方で、プロ将棋は人間同士の勝負の世界であることも事実である。

今後への問題提起という意味では、今回の最終局は、非常に意味深い結果だったと思う。