『3×4−10月』でも出て来た沖縄の風景が美しく撮られている。
「キタノ・ブルー」と呼ばれる青の使い方が特に印象深い。
監督は冥土の土産に綺麗なフィルムを遺したかったのだな、としか思えないほど、映画の全編を通して「死」の匂いが立ち上ってくる。
抜けるような青空と海を背景に、死に場所を探すヤクザ達が子供のように戯れる様子は、虚無的な天国の風景を思わせる。
暴力的なシーンはあるが、『その男、凶暴につき』で見せたような陰湿さはなく、突然やって来てあっという間に終わる。
クライマックスの大抗争シーンは、流血すら描かれず、ただホテルの外から眩い光が映されるにすぎない。そのため最も凄惨であるべき場面が美の印象しか残さない。
ストーリーはもはや重要ではなく、観客が映像の官能に酔いしれるためだけの映画だ。
再びこの映画は虚無を表現しているが、それは苦悩を突き抜けた乾いた虚無だ。
「何もかもどうでもいい」というニヒリズムさえ突き抜けたところにある虚無だ。
ここまでくれば、本当の「無」まではあと一歩だ。
北野の演技は、演技というより素で振る舞っているようにしか見えないという巧妙な演出が施されている。
自分の理想の姿をフィルムに遺してから死にたかったのかと思った。