小谷野敦が『芥川賞の偏差値』という本の中ですばらしいと書いていた勝目梓『小説家』という本を読んだが、たしかにすばらしかった。
到底正当化できないことをしていて、こうやって書くことが何かの贖いになったりするものだろうか。もちろんならないのだということをきっぱりと認めているのが潔い。
『死の棘』や『新生』の著者の狡猾さと違って好感が持てる、などと書いてしまえるというのは所詮自分も身勝手な奴だということだろう。『寝ても覚めても』の映画を見た時には女主人公に腹を立てておきながら、男ならば許せるというのはやっぱり許されないことだろう。
芥川賞と直木賞の候補になりながら、純文学を捨てて通俗小説家として貫いたのも潔い。
だがとうとうこの通俗小説ではない自伝を書いてしまったのが作家の性なのか。
森敦という人について魅力的に描かれていたので、こんどはそっちに興味を持った。