War Is Over

 if you want it

ざるうどん

佐藤泰志の評伝に出てくる藤堂志津子のインタビューが魅力的だったので、図書館に彼女の本を探しにゆき、文庫本で唯一在架だった『別ればなし』という小説を借りて読む。

面白かった。どろどろした修羅場が続く内容なのに、文体がサバサバしていて湿っぽい陰鬱さを感じない。

文庫本の解説をあの小谷野敦が書いていて意外だったが、あの<恋愛研究家>の小谷野敦が、「恋愛は藤堂志津子の小説で学んだ」とまで言うのだから恐ろしい(何が?)。

小谷野のいうとおり、こういう小説は筋を楽しむというより細かい描写を楽しむべきで、ぼくが面白いと思ったのは、小谷野が指摘してる個所ともう一つ、主人公の千奈がこれから不倫相手になる十歳年上の四十男の杉岡が昼休みにうどんを食べに行くのを毎日同じ店に行って追いかけ、少し離れた席に座り、「こちらに背をむけて、ひとりで腰かけ、その手の動きからすると、ざるうどんか何かを食べているらしかった。丼を前にしている姿勢ではない。」などと細かく観察しているところだ。こういう、恋人を見るともなく見ている、だが変な偏執狂的な思いを混ぜて見ているのではなく、<ただ見ている>という描写に自然さを感じさせるところ。その透明な視線がまぶしい。

小谷野が「平成の十大恋愛小説」の一つに選んでいる「昔の恋人」も読んでみたくなった。

 

ブラックボックス」で芥川賞を受賞した砂川文次の〈芥川賞受賞第一作〉となる「99のブループリント」が掲載されている「文學会」3月号も借りて読んだ。

これは、金融とかファイナンスとか投資とかフィナンシャルとかFXとかそのたぐいの話にはまったく知識も関心もない自分には、延々と専門用語の並ぶ説明に付き合うのはきつく、とても読めなかった。そういう投資とかにまつわる部分を除くと、物語のテーマは「ブラックボックス」やらその他の過去作品と同じ、<生きづらさの中で藻掻く俺>と家族やら恋人やら社会生活やらを巡る諸々、であって、フィナンシャルで分かりにくくなっている分、今回は伝わりづらかった。次回作に期待したい。

 

川端康成文芸時評を今読んでいるが、思ったよりずっと面白くてびっくりしている。谷崎も荷風も白鳥も「くだらぬものはくだらぬ」とばかりにぶった切り、当時隆盛を極めていたプロレタリア文学にも真正面からケンカを売っていくストロングスタイルの批評にしばし言葉を失う。基本的に全否定なのかと思いきや、いい作品はきっちりと評価していて、その眼力は恐ろしいくらいに的確である。やはり遠慮や忖度があってはいいものは生まれない。