INSTANT KARMA

We All Shine On

文学関係

quantum families

ぼくは考えた。ひとの生は、なしとげたこと、これからなしとげられるであろうことだけではなく、決してなしとげなかったが、しかしなしとげられる《かもしれなかった》ことにも満たされている。生きるとは、なしとげられるはずのことの一部をなしとげたこと…

あまりに文学的な

東浩紀「訂正可能性の哲学」 (ゲンロン叢書)を買った。 新宿の紀伊国屋で買ったのだが、数か月前に同店に行ったときは目立つ場所に大量に積まれていて緑の表紙が嫌でも目に付いたのだが、 昨日同店に行ったら、1階ですぐに見つかると思ったらなかなか見たあ…

ドストエフスキーの「最後の主体」

東浩紀の「観光客の哲学」が素晴らしかったので、「訂正可能性の哲学」も買うことにして、4月18日の吉田豪とのイベントもオンライン観覧を申し込んだ。 twitcasting.tv 18日までに「訂正可能性」を読んでおきたい。 (吉田豪の「聞く力FINAL」はもう読…

Volonté Générale 2.0

東浩紀『一般意志2.0』(講談社、2011年)を読む。 ルソーが『社会契約論』で述べる一般意志(東のいう「一般意志1.0」)というものをGoogleに代表されるメガデータベースの観点からバージョンアップし、そこに「無意識の欲望」という形でフロイトを絡める議…

Structure et Force

良きギャンブラーは良き遊戯者の資格をそなえている・・・悪しきギャンブラーは何度も骰子をふることによって望みの目を出そうとする。そのことによって骰子ふりを未来の目的に従属させ、偶然性を蓋然性に変えてしまうのだ。それに反して、良きギャンブラー…

小林秀雄のベルクソン論(「感想」)3

あんまり続けるのもなんだから、今回でいったん終わりにする。 小林は、昨日書いた「蛍になったおっかさん」を見て二か月ほどして、また不思議な経験をする。「ベルクソン論」(「感想」)の冒頭に出てくる二つ目の挿話がこれである。 或る夜、晩(おそ)く…

小林秀雄のベルクソン論(「感想」)2

小林秀雄のベルクソン論は、こんな風に始まる。 (なお、小林は「ベルグソン」と表記しているが、今の表記に倣ってこの中では「ベルクソン」とする。) 終戦の翌年、母が死んだ。母の死は、非常に私の心にこたへた。それに比べると、戦争という大事件は、言…

小林秀雄のベルクソン論(「感想」)

ようやく読んだ。 ベルクソンを読み始めたのは、小林秀雄がベルクソンに影響を受けていたことを知っていたからであり、小林秀雄のベルクソン論を読みたかったからである。 小林自身は、昭和33年、56歳の時に『新潮』に「感想」という表題の下に連載したこの…

ヴェニスに狂す

フリードリヒ・ニーチェ ヴェニス (生野幸吉訳) 橋のたもとに私はたたずんだ、 先ごろ、とびいろの夜に。 遠くから唄声がきこえてきた。 金いろの雫となって唄は湧き、 ふるえる水面をわたり、去った。 ゴンドラの群れ、ともし灯、 そして音楽--- よいしれ…

N/M/N/K

先週末、"Hair Stylistics For SALE” Masaya Nakahara Collection Garage Sale が行われ、その際に以下のアナウンスがあった。 (以下XのアカウントV.I.N.Cent Radio@VincentRadioより転載) 1月に中原昌也さんが倒れたくさんの支援が立ち上がりました。 わ…

「みどりいせき」(閲覧注意)

※大田ステファニー歓人『みどりいせき』の内容の詳細に触れますので、未読の方はご注意ください。 2月に単行本が出るので、それを読んでからの方がいいと思います。 どんな感じって言われてもこんな感じとか伝えづらいから書くのをためらってるうちに今日が…

「みどりいせき」感想(ネタバレなし)

第47回すばる文学賞受賞作 大田ステファニー歓人「みどりいせき」 読んだ。 最初の数頁で挫折しそうになったが、途中からはぐいぐいと引き込まれ、 最後の頁では号泣。 ネタバレたっぷりの感想は改めて。

トマス・ピンチョンがダメだった理由(わけ)

図書館でトマス・ピンチョンの本を借りて読もうとしたが、まるでダメだった。 「スロー・ラーナー」 (ちくま文庫) 「V.〈上・下〉」(新潮社) 「競売ナンバー49の叫び」 (ちくま文庫) 「重力の虹〈上・下〉」(新潮社) どれも最後まで読み通すことができず…

無くて七草

図書館でトマス・ピンチョンの本を借りてきて読む。 やたら名前だけはよく目にするのだが読んだことがなかったので。 新潮社から出ている全集の『V.』を読み始めるが、途中でテクニカルノックアウト。 「難解」というのではなく、単についていけない。笑える…

歌というフィクション

「歌というフィクション」(大谷能生、月曜社、2023年) この年末年始はこれを読んで過ごそうと思う。 これを読めば、こっちも理解しやすくなるかもしれない。 最近、古本屋で大岡昇平の「小林秀雄」を買って読んだが、小林秀雄について知るにはベルグソンが…

聖夜の話

キリストのヨルカに召されし少年 フョードル・ドストエフスキー 神西清訳 それは、ロシアのある大きな町であったことだ。その晩は、クリスマスの前夜で、とりわけ、寒さのきびしい晩だった。ある地下室に、ひとりの少年がいる。少年といっても、まだ六つにな…

Award Speech

続きまして集英社すばる文学賞を受賞されました大田ステファニー歓人さん、 お願いいたします。 うぇい えい えっとー、実はですね、自分先日 結婚しました (会場拍手) えっと、うーん これから頑張って いこうかなって感じです もっと 寿ぎ案件 話しちゃ…

SNS以後に「書く」ということ

この本について感想を書くのは、 吉本隆明『言語にとって美とはなにか』 時枝誠記『国語学原論』 菅谷規矩雄『詩的リズム』 を読んでからにしたい(吉本のは持っているが内容を完全に忘れた)。 ・・・なんて言ってたら永遠に書けない気がするので、 せめて…

〈ツイッター〉にとって美とはなにか

完全に自己を告白することは何人にも出来ることではない。同時にまた自己を告白せずには如何なる表現も出来るものではない。 芥川龍之介『侏儒の言葉』 人間とは決して自分自身と一致しない存在である。人間には<A=A>という同一律の公式を応用するわけに…

岩澤瞳語録

新宿ブックファーストで大谷能生『〈ツイッター〉にとって美とはなにか SNS以後に「書く」ということ』(フィルムアート社、2023年)のサイン本を入手。 レジの前に菊地成孔の「コロナ日記」のサイン本も積んであったのでついでに買う。 ついでに、というの…

踊る池田大作戦

中原昌也の退院を知る。よかった。 自分もまだ生きようと思える。 世界が異常なもの、基地外じみたものになっている、という感覚は、トランプが米大統領になった頃から持っていたのだが、最近それが加速度的になってきている気がしてしょうがない。今までノ…

一作曲者の日乗

先日、二瓶哲也『それだけの理由で』を読んでの感想に、 西村賢太という存在が失われて、もう小説というものには縁が切れたかな、と思いかけていたところだったが、まだ二瓶哲也という作家がいてくれた、と思えたことがうれしい。 と書いたが、今度はうれし…

それだけの理由で

『文學界』3月号に掲載されていた二瓶哲也『それだけの理由で』を読んだ。 いや~、今年文芸誌で読んだ小説でナンバーワンだったかも。 主人公がどことなく西村賢太の小説の「北町貫多」を思わせる五十男で、老人施設のデイケアの送迎運転手をしていて、毎日…

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「あのさ、みさ、オーディションに受かるのをダラダラ待てるほど余裕ないんだよ。まだバイトできないから、今のうちに制服シスターズとか撮影会とか出て仕事しないと、やばいんだよ、みさ勉強とかしてる場合じゃないの。この仕事していれば水着の仕事ぐらい…

Good Day for Fireflies

小谷野敦小説集『蛍日和』(幻戯書房、2023年)を読んだ。 表題作中の「蛍」とは、作者が結婚した21歳年下の女性(当時23歳)の名前である。 小谷野の私小説は、童貞の悶々とした性欲、片思い女性へのストーカー的な恋慕、鬱屈した性欲の出口を求めての風俗…

Ending Bell

佐藤愛子が90歳で書いた最後の小説という『晩鐘』を読んだ。 図書館で何気なく本棚を眺めているときに、ふと手に取って読みたくなった。 佐藤愛子といえば、心霊関係に凝って江原氏や美輪氏とつきあっていて90歳過ぎて何がめでたいとふんぞりかえっているお…

Beautiful Planet

「お前は偶然というものを信じるかね」と聡明な父親は言った。 「偶然という言葉は、人間が自分の無知を糊塗しようとして、尤もらしく見せかけるために作った言葉だよ。 偶然とは、人間どもの理解を超えた高い必然が、普段は厚いマントに身を隠しているのに…

Sorry for Bein’ Born(カモン火星人)

暗い投稿ばっかりですみません。 太宰の有名な「生まれてすみません」というフレーズが寺内寿太郎からのパクリだったという説が膾炙して久しいのと同じように、「走れメロス」が古代ギリシアのダモンとピチアスの話をシラーが詩にしたのを太宰がそのまま小説…

京女王

花房 観音「京都に女王と呼ばれた作家がいた 山村美紗とふたりの男」 (幻冬舎文庫、2022年)を読んだ。 山村美紗には興味なかったが花房観音が書いているので読んでみた。流石に読みやすく巧い文章を書く。 出版業界でタブーとされてきた西村京太郎との関係…

S,L&S

吉田豪のshowroomに出演していた関美彦のYouTubeに上がっている音楽が割とよくてBGMに重宝する。 youtu.be 彼のHPに載っている小説「Boy Meets Girl 」もなかなか面白かった。 どことなく小島信夫を感じさせる力の抜けた文体が味わい深い。 脱力して、惚(と…